CM炎上なぜ絶えぬ ジェンダーは今や企業の「教養」治部れんげ著 「炎上しない企業情報発信」

2018/11/3

「職場で男女を違うものさしで測る」「女性に容姿を整えるよう要求する」といったメッセージを批判的にみるのが、ジェンダー視点を持つ第一歩になると著者は述べます。

女性が「男性化」? チェックは多様な視点で

自分の会社が発しようとしているメッセージを立場を変えて見直す、第三者の視点でチェックする、少し常識と想像力を働かせる――。それだけでも炎上を防げるケースは多そうですが、なぜ後を絶たないのでしょう。著者は、発信を担当するチームに女性が少ないうえ、女性が「男性化」している場合もあると指摘します。男性が多い職場で受け入れられようとして、知らず知らずのうちに男性的な視点を取り入れているというのです。

「女性がOKと言ったから大丈夫」というのは危ういことがある。「その女性は、本当に消費者を代表しているのか? その女性が代表しているのは、どんな属性の女性なのか」と、考えることが大切だ。
(第2章 なぜ優良企業のCMが相次いで「炎上」するのか 63ページ)

「白雪姫」から「アナ雪」へ 変わるプリンセス像

ジェンダー観や社会の常識は、時代によって変わってきました。それをとらえる材料として、著者はウォルト・ディズニーの「プリンセス映画」に注目します。

1959年までの初期のディズニー映画は「白雪姫」や「シンデレラ」のように、若くて美しい姫が魔女や継母がもたらす困難に耐え、王子に救い出される物語でした。しかし、89年以降は「美女と野獣」のように異類婚をテーマにしたり、「アラジン」など非白人を主人公にしたりしています。2010年以降は、大ヒットした「アナと雪の女王」のように活動的で王子の助けを待たないプリンセスが描かれます。時代の空気をとらえ、ヒロイン像を大きく変化させてきたのです。

大衆が暗黙のうちに求める変化と企業の提案が合致する時、その発信は変化の先を照らす松明(たいまつ)のような役割を果たすことになる。大切なことは、企業が時代の変化を見極めること、そして、その変化を自社の発信に適切な形で取り込んでいくことである。
(第4章 ディズニー・プリンセス映画はなぜ炎上しないのか 126ページ)

動画と言えばテレビCMだったころに比べ、ネット時代の今は格段に安い費用で、比較的手軽に動画を制作・配信できます。情報発信にかかわる人が少ない場合も多いでしょう。また、ネット動画は会社が狙う層にとどまらず、短時間で容易に拡散されます。そんな今だからこそ、一人ひとりがジェンダー視点を持ち、世界のトレンドや文脈までも学んでいく必要がありそうです。男性、女性、どちらにも分類されたくない人、すべてに読んでほしい一冊です。

(雨宮百子)

◆編集者からひとこと 三田真美

著者の治部れんげさんは、ダイバーシティーやジェンダー規範に精通し、女性への配慮を欠いた様々な問題に真っ正面から切り込む勇気ある女性です。彼女のもとには、CMの内容のバランス感覚をチェックしてほしいという依頼が少なくありません。

そこで、時代の変化に呼応してプリンセス像を中性的に変えてきたディズニー映画と日本企業の炎上CMの例を対比させつつ、これからのビジネスパーソンに不可欠なジェンダー対応力を考えるという独自の切り口の本書が生まれました。

表紙にはライオンを「お姫様だっこ」する姫、裏表紙に花をめでる優しげな王子――。川原端丸さんのすてきなイラストは、本書の内容を象徴しています。かつて白馬の王子を待つお姫さまを描いていたディズニー映画には、もう王子を待つだけのプリンセスは登場しなくなったのです。

一日に数百冊が世に出るとされる新刊書籍の中で、本当に「読む価値がある本」は何か。「若手リーダーに贈る教科書」では、書籍づくりの第一線に立つ日本経済新聞出版社の若手編集者が、同世代の20代リーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介します。掲載は原則、隔週土曜日です。

炎上しない企業情報発信 ジェンダーはビジネスの新教養である

著者 : 治部 れんげ
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,944円 (税込み)

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