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700万円のギターも! 憧れのエレキにオトナが心酔

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NIKKEI STYLE

1970年代のロックミュージック黄金時代に10代だった少年も今や50~60代。かつて憧れた有名ブランドのエレキギターにこだわり、プレミアム感のある楽器を探し出して購入できるようになった。中にはギター初心者もいる。楽器店やメーカーも、購入力を伴った彼らの「エレキ愛」に注目している。

「フェンダー」や「ギブソン」など名器ずらり

東京・銀座の山野楽器本店。夕刻の4階ギターフロアに、仕事帰りの中高年サラリーマンがエレキギターを試奏しようとふらりと来店する。「銀座という場所柄、顧客の年齢は40代後半以上がほとんど」と売り場スタッフの島田真理央さんは話す。ウイークデーの昼間には"銀座の旦那衆"の姿も目立つ。

店内には「フェンダー」「ギブソン」「リッケンバッカー」といった老舗のエレキギターブランド、さらに「ステファン・マルキオーネ」など近年の名器がずらりと並ぶ。価格は数十万~数百万円。5万~6万円の品もあるが、銀座本店は数を売る店舗ではなく、「ここでしか見られないえりすぐりの逸品を集めている」(島田さん)という。

現在の店内最高額は「グレッチ」のチェットアトキンスモデルで約700万円。1955年製造で、同機種では世界で2番目に古いらしい。来店者には若者の多い渋谷やお茶の水の楽器店ではなく、大人の街である「銀座」で買いたいとの気持ちもあるようだ。

「10代の頃は憧れでしかなかった逸品を、中高年が自分へのご褒美として買って行く。特にフェンダーやギブソンなど、好きなギタリストが使用する老舗ブランドにこだわる方が多い」(島田さん)。銀座の自営業者から「自社ビル最上階にスタジオを造りたいので、楽器や機材の相談にまとめて乗ってほしい」との豪勢な相談もあった。

意中の楽器を手に入れたら、やはりバンドで演奏したくなる。神奈川県横浜市の会社員(57)は、子どもが生まれて一度は弾かなくなったギターを45歳で再開し、一気にのめり込んだ。愛器は新興メーカー「パーカー」のFLY MOJO。米国製フェンダー・ストラトキャスターも1台所有し、その完成度の高さに魅せられている。

現在、ハードロックトリオを率いて東京都内のライブハウスで年数回ライブを開き、70年代の洋楽と邦楽の名曲を組み合わせた演奏で同年代の観客を喜ばせている。「ギターという楽器は敷居が低くて、奥が深い。50代になってもずっとうまくなりたいと思い続けている」と話す。

東京都国分寺市の米田克己さん(53)は外資系企業のエンジニア。初めてのエレキギターは中学3年の時に友人から3000円で買った国産モデルだった。米国のバンド、キッスのエース・フレーリー愛用モデルを模した機種だ。

以来、学生時代から社会人、さらに米国への大学院留学を経験する中で米田さんは数々のギター、そして音楽仲間と出会ってきた。今一番のお気に入りである「G&L」ASAT Z-3は近隣の楽器店で一目ぼれして購入した。「ギターの方から『弾いてくれ!』と呼ばれる気がした」と米田さん。欲しいサウンドが得られるなら価格も楽器の来歴も気にしない。学生時代の愛用ギターもメンテナンスを欠かさず保管してある。

初心者向けレッスンも開催

演奏経験が乏しくても、エレキギターに愛着を抱く人は多い。山野楽器はそんな大人向けにギターレッスンを開いている。アンサンブルやライブステージも楽しめる形で、彼らのエレキ愛に応えるのだという。

購買力を伴う中高年には、メーカーも注意を払う。フェンダーミュージック(東京・渋谷)の高橋一平マーケティングディレクターは、「少年時代からギターを愛してきたシニア世代は顧客の核」と話す。昨年から計5回、交流サイト(SNS)などでユーザーアンケートを実施し、のべ1万3717人から回答を得たが、36%が50歳以上だった。

高橋さんは「オーダーメードの『フェンダー・カスタムショップ』を頂点に量販品も徹底的に品質を追求し、憧れのブランドへの期待に応えていく」という。

米田さんは「エレキギターのない人生は考えられない」とつぶやいた。シニアが奏でるエレキギターの音色には、それぞれの人生体験が込められているようだ。

(ライター 大谷 新)

[日本経済新聞夕刊2018年10月27日付]

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