業界で白斑問題 「お蔵入りを覚悟」

早速、ヒアリングに向かった山口氏は末延則子氏たち開発メンバーから見せられた、リンクルショットの効果実証試験の結果にあぜんとする。「ポーラ始まって以来の売り上げを記録する商品になるかもしれない」。ところが、社内のデザイナーたちと商品戦略、販売戦略を急ピッチで進めていたさなか、13年7月に化粧品業界を震撼させる事件が起きた。医薬部外品として厚労省の認可を受けた美白化粧品で、肌に白斑ができる「白斑問題」が明らかになったのだ。使用した1万5000人以上の被害が判明し、集団訴訟にまで発展。「医薬部外品という制度自体を見直すべきではないか」という声も上がり、これまでにない抗シワ医薬部外品の承認が下りる可能性など、全く考えられない状況になった。山口氏は「お蔵入りを覚悟しました」。

ゴールを目前にして閉ざされた扉をどう動かすか。商品開発リーダーである末延氏は安全性を徹底的に裏づけるデータを積み上げることを決断。医薬部外品の安全性ガイドラインが定めた期間を大きく超える規模の安全性の試験を実施する。そして白斑問題発生から約3年後、16年7月8日にリンクルショットを医薬部外品として販売する承認が厚生労働省から下りた。

機能だけで売らない

「ポーラのモノづくりへの姿勢を伝えられる絶好の機会と考えた」と山口さんは話す(撮影・竹井俊晴)

発売日が2017年1月1日と決まり、残された時間は6カ月足らず。山口氏が再登板し、商品企画部、宣伝部、デザインチーム、販売部門を横断する20人の「リンクルショット・タスクフォース」チームを結成した。プロモーションの軸としたのが、15年をかけて日本初の抗シワ医薬部外品に挑んだ末延氏たちの開発ストーリーで、すべての人の「ハートに火をつける」作戦だった。

「『日本初のシワを改善する美容液』というインパクトはものすごく大きい。だからこそ『機能だけで売らない、広めない』ことを、最初の段階で大事な基本方針として固めた」と山口氏。

シワ改善医薬部外品という超有望マーケット。今後、他社も「シワに効く美容液」を発売してくることは確実だ。いずれは、機能面でリンクルショットを超える商品も出てくるだろう。だとすれば、多くの困難に見舞われながら、あきらめず研究を続け、革新的な商品を作り出した開発チームの15年間も同時に伝えよう。その唯一無二のストーリーは、人の心を必ず動かす。「ポーラのモノづくりへの姿勢を伝えられる絶好の機会。払拭し切れていない『古臭い訪販の化粧品会社』というイメージを刷新し、コーポレートブランド自体のステージを上げる機会だという確信があった」

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