妄想にみんな巻き込め 吉野家CMOのマーケター論吉野家CMO兼グリッド社長 田中安人氏

「社会課題の発見とパッションの設定、私のスタイルはそこに尽きます。吉野家とはなまるうどん、すかいらーくHDのガストとの3社合同キャンペーンは、その一例です。そんなこと普通はできないって思いますけど、外食同士で戦っている場合じゃないという発想に、すかいらーくの方が共感してくれました」

――競合と協力する発想はどこから?

吉野家、ガスト、はなまるうどんの共同キャンペーンが話題に(2018年8月)

「女性社員が発案し、交流サイト(SNS)で話題になった『ニクレンジャー』(肉関連企業5社で結成)が一つのきっかけになりました。牛丼で競合する松屋も参加してくれ、盛り上がりました。お客さんには競合なんて関係ないのかなと思って調査してみると、外食ユーザーは10ぐらいのブランドを回遊しているとわかりました。競合相手は、むしろコンビニエンスストアや中食じゃないか。それなら手を組んだ方がいいという考えです」

「自分事」にならない企画は成功しない

――成功する企画と失敗する企画の違いは何ですか。

「社員や関係者が自分の事としてとらえてくれるかどうかです。マーケターは外ばかり見がちですが、現場を鼓舞しないとうまくいきません。『自分事』になった企画は、一人歩きしてくれます」

「ソフトバンクの携帯ユーザーに無料で牛丼を提供する企画『スーパーフライデー』では、4日間で850万人が来店し、大行列になりました。それでも1200店で無事にオペレーションできたのは、社員が企画の趣旨や意義を理解してくれたからです」

――現場とのコミュニケーションは最初からうまくいったのでしょうか。

「最初は全然だめでした。牛丼一杯に命をかける侍の集団でしたね。そんな雰囲気ですから社長と私で考えた新メニュー『ベジ丼』にも、最初は抵抗があったようです」

「ある会議で『皆さんにとって吉野家って何ですか』と聞いたときに、ファストフード業界の24時間営業の草分けとして終電を逃したサラリーマンの居場所になったとか、震災のとき自衛隊の車両を借りてでも牛丼を提供する吉野家に誇りを持っている、といった意見が出ました」

「『つまり皆さんは吉野家の看板を守ることじゃなくて日常の食事を24時間提供し続けて世の中のインフラになってきた、それが誇りなのですね』『それならこれからは(伝統に固執する)侍じゃなくて、(時代に合わせて変化を続ける)サムライになりましょうよ』と言ったらすごく納得してくれました。それから日本刀を捨てて(笑)、新しい吉野家を皆で議論する機運が出てきました。女性や家族連れも入りやすい新型店の研究も始まっています」

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