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ヨーヨー・マ 新盤バッハ「無伴奏チェロ組曲」を語る

2018/10/27

ヨーヨー・マ氏の最重要レパートリーであるバッハの「無伴奏チェロ組曲」は、20世紀最高のチェリストといわれるスペイン出身のパブロ・カザルス氏(1876~1973年)が世に広めた作品だ。カザルス氏は13歳だった1890年、バルセロナの古書店で偶然この曲集の楽譜を「発見」した。1904年にパリで全曲演奏会を開き、200年近くも埋もれていた傑作が復活した。

さらにスペイン内戦で亡命したカザルス氏は1936~39年に同曲集をレコーディングした。彼の反フランコ独裁政権の姿勢と相まって、ヒューマニズムと歴史的価値を持つ名盤として聴き継がれている。ただしこの曲集にはバッハの自筆譜がなく、妻アンナ・マグダレーナによる写譜しか残っていない。このため最近では妻が作曲したのではないかという異説さえ出ている。だがヨーヨー・マ氏のこの曲集への愛着と信念は揺るがない。緩急自在な演奏を繰り広げる最新CDからは、何か吹っ切れたような、達観したチェリストの幸福感が伝わってくる。

60代でのバッハ演奏で世界に貢献できること

――20、40、60代の3回のレコーディングはそれぞれどんな背景と特徴と持っているか。

「20代の頃は自分が不死身で人生はずっと続くと思うものだ。それでも当時、バッハの『無伴奏チェロ組曲』の収録は挑戦だった。若者に何ができるのか、もっと経験を積んだ年配の演奏家が弾くべき作品ではないかといわれていた。偉大なカザルスが発見し、我々に広めた音楽で、カザルスに匹敵する奏者はいない。そんな状況を切り抜けるため、私はカザルスではないし、彼と同じことをしないと決めた。3日間のレコーディングで私は20代の自分にできる、最高の演奏を目指した」

インタビューに答えるチェリストのヨーヨー・マ氏(10月19日、都内)=写真 湯澤華織

「2度目は40代前半。私は家族と子供を持った。多くの偉大なアーティストたちと一緒に仕事をしたが、特に(オランダの古楽演奏家の)トン・コープマン氏から教わった。彼が率いるアムステルダム・バロック管弦楽団・同合唱団はバッハのカンタータの全曲録音を進めていた。20代の頃には何も知らなかったことを彼らから学んだ。そこで2度目のバッハ『無伴奏』ではバロック仕様の弓を使う実験もした。いくつかの組曲では(バロック調律を使ったので)ラの音程が通常よりも低い」

「90年代当時はDNAについての議論が盛んになり、(ヒトゲノム計画など)分子生物学が発展してきた時期でもあった。そこで私は音楽もDNAを持つと想定し、そのDNAを創造的な人たちの心に植え付けたら、彼らが何か人々の役に立つ有意義なものを生み出すのではないかと考えた。そこで歌舞伎の坂東玉三郎氏をはじめ様々な分野のアーティストたちとの共同作業によって、6つの組曲に対応した6部から成る映像シリーズも製作した」

「そして今回、3度目の録音で私は新たな実験に臨んだ。多くの人々からバッハの『無伴奏チェロ組曲』が心の支えになっているという声を聞いてきた。では62歳になった私が社会にどんな貢献ができるのか。そこで私はなぜバッハが『無伴奏チェロ組曲』を書いたのか、それが現代にいかに役立つかを考えた」

「世界を見渡すと様々な問題が起きていて、一人で解決できるものはない。地球温暖化のようにみんなで取り組まなければ解決できない問題も多い。音楽は人をひき付け、つなげる力を持っている。人々が集まり、こうした課題に向き合うきっかけを作ることができる。音楽が問題を解決できるわけではないが、人々をつなぐ役割は果たせるのではないか。クレージーな考え方かもしれないが、私は本気で取り組んでいる」

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