
がんになったことを子どもにどう伝えるかは、僕の中の大きな悩みでした。がんという病名だけならまだしも、死ぬかもしれないという思いがあったから、死をどう伝えればいいんだろうと悩み、堂々巡りで…。病院に通っていることも、手術の傷があることも娘は知っているけれど、ちゃんとは言えませんでした。
結局、がんになって1年たたないぐらいのときに、妻が「お父さんの病気はがん」ということをさらっと伝えてくれていました。それ以降、あらためて娘と病気の話をすることはないのですが、オフ会や取材を受けるときなどに一緒に来るようになりましたね。
――子どもと接するときに、何か心掛けていることはありますか。
特に意識していません。僕が子どもと過ごしたいと思うから一緒に過ごすのであって、子どものためではないんですね。ここを間違えると、すごく押しつけがましくなってしまう。「娘のために、一緒にいる時間をつくっているんだ」となると、娘は「そんなの知らない」って、たぶん思うんじゃないかな。聞いていないから分かりませんが…。僕のエゴなんですけど、「一緒に過ごしたいから、付き合ってよ」という感じです。自分の気持ちに素直になっていいと思っています。
がんの話を子どもとするときに読める絵本を企画
――キャンサーペアレンツでは絵本『ママのバレッタ』を作られています。抗がん剤治療で脱毛し、自慢の髪の毛をなくしたお母さんとその娘との触れ合いが、柔らかいタッチで描かれていますね。

会員のお母さんが「絵本があると、子どもと一緒にがんのことを理解しやすいよね」と言われたことから、絵本を作るプロジェクトが立ち上がりました。がん患者が登場する絵本は世の中にあるけれど、死んでお星さまになるとかリアルな内容じゃないよね、と。がんになった当事者が、子どもに読み聞かせできる絵本を作ることにしたのです。
ストーリーは会員の体験がもとになっています。プロジェクトメンバーは皆、絵本作りの素人ばかり。自分たちの子どもにストーリーを聞かせて、分かりにくいと感じたところをフィードバックしてもらい、ああでもない、こうでもないと練り上げていきました。
印刷して絵本の試作品を作り、プロジェクトメンバーで本を出してもらえる出版社を探し、営業に行きました。売れないからダメと断られることが多かったのですが、夏にようやく出版することが決まりました。
がん患者がアクティブに参加できる機会を作りたい
――今後はどのような活動をしていきたいとお考えですか。

先にお話ししたキャンサーペアレンツで取り組んでいる調査・研究、オフ会など、会員のがん患者さんがアクティブに参加できる機会を、どんどんつくっていきたいと思っています。僕自身がそうなんですが、何かをやろうとすると、気持ちがよくなってポジティブになり、体の調子もいいように感じます。
これから取り組もうとしている活動の一つに、親ががんを経験した子どもの成長について、大学で行われる研究に参加する話があります。親ががんの子どもは、ショックを受けて悲しんだり、情緒不安定になったりしているのではないかと、ネガティブに捉えられがち。けれども、心的外傷後成長(PTG)といって、心に傷を負うような体験をしたことで、逆に人として成長がもたらされるといわれているそうです。
例えば、子どもたちへのインタビューを通して、がんの親を持つ子どもの成長している様子が見て取れるのなら、僕たち親は子どもの将来を悲観する必要はないことになります。このような患者に役立つ可能性のある研究に、積極的に参加していきたいと考えています。
(ライター 福島恵美 カメラマン 村田わかな)
