職場復帰してから1年ほどは正社員のままでした。週に1日病院に行くために20日間ある有給休暇を使いながら会社を休み、週4日間勤務しました。体力が戻っていなかったから、残業なしの定時退社。営業時間が圧倒的に少なく、もれなく営業成績が下がりました。有給休暇は半年ぐらいたつとなくなります。病院に行く日は欠勤になるから月給が減り、全体の収入はどんどん減りました。でも、お金を稼ぎたいというより、治療しながら仕事をさせてもらっていることがありがたくて。当然、治療費や生活費は必要ですし、その分を得られればという思いでした。

2016年7月から、アルバイトの契約に変えてもらっています。そもそものきっかけは使っていた2種類の抗がん剤のうち1種類にアレルギーが出て、その薬が投与できなくなったことです。今後の治療をどうするかを主治医と相談しました。僕としては1年間抗がん剤を使ってきたわけだし、転移したがんが小さくなり、このタイミングで手術できるのではないか、という期待があったんです。
主治医の判断は、「手術は難しいかもしれないが、積極的な治療をする病院もあるかもしれない」という感じでセカンドオピニオンを勧めてくれました。この後、2カ所の病院でセカンドオピニオンを受けましたが、「抗がん剤で転移したがんがなくなることは考えにくく、手術をすることには難しい」という結果でした。と同時に、「1年間この治療を受けてきたのはあなたですか。体の状態から考えられないほど元気ですね」とかなり驚かれて。胆管がんのステージ4は、それだけ予後が悪い病気なんです。
がんになってから1年がたち、治療しながら仕事をすることにも慣れてきていて、この日常が続くものだと思っていたところに、「今、元気な状態がすごい」と言われ、今後の見通しに危機感を覚えました。そして、それなら自分のやりたいことにチャレンジできる働き方に変えたいという気持ちに変わったのです。
仕事と治療と患者のつながりをつくる活動に取り組む
――西口さんのやりたいこととは2016年4月に始めた、子どもを持つがん患者のつながりをつくる、キャンサーペアレンツ(https://cancer-parents.com/)の活動ですね。

僕ががんと診断されたとき、同世代で同じように子どものいる患者さんは周りにいませんでした。どのように仕事に復帰し、がんになってから家族とどうコミュニケーションを取ったのかを知りたいのに、がん患者の実生活についての情報はなかなか得られませんでした。がんの生存率や薬の情報はあるのだけど。僕と同じような立場で悩みを分かち合える人がいないのは孤独でした。
そのような自分の経験から、同世代のがん患者で話ができる場所が必要だと思ったんですね。同じように子どもを持つがん患者の集まりがいいなと。仕事を持っている世代ですから頻繁に集まるのは難しいですし、インターネット上でつながるコミュニティにしました。がんの種類やステージに関わらず、色々ながん患者さんがコメントを書き込んだり、相談したり、励まし合ったりすることができます。検索すれば、がんの種類やステージ、年齢など同じ境遇の人を見つけられます。今、会員は約2400人です(2018年10月現在)。
抗がん剤の1種類が投与できなくなったことに加え、このキャンサーペアレンツの活動に本腰を入れられるように、正社員からシフト制のアルバイトに変えてもらいました。働き方を変える前には、社長に直接会い、「長年お世話になっている会社で働きながら、キャンサーペアレンツにも取り組みたい」と伝えました。「やればいいよ!」と両方できるように応援してもらえ、営業から内勤の人事部に変わったのです。今は仕事に行く日、通院の日、キャンサーペアレンツの活動日に分けて過ごしています。

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西口さんのインタビューの後編では、キャンサーペアレンツが取り組むがん患者への調査や親ががんになったときの子どもへの伝え方について伺う。
(ライター 福島恵美 カメラマン 村田わかな)
