カフェインの健康リスク、世界で関心 摂取量に目安も
カフェインの過剰摂取への関心が国内外で高まっています。米国、ドイツ、カナダ、フィンランドなどは昨年までに国民に過剰摂取への注意を喚起し始めました。健康に悪影響を及ぼさない摂取量の目安を公表する動きもあります。例えば、カナダ保健省が示す目安は成人で1日最大400ミリグラム。日本の食品安全委員会はカフェインの影響を解説する「ファクトシート」を公表して注意を促しています。
カフェインはコーヒー豆、茶葉、カカオ豆、ガラナといった素材に含まれる成分の一つです。コーヒーやお茶に含まれるほか、医薬品や食品添加物としても利用されています。カフェインを適量摂取すれば頭がすっきりしたり、眠気をさましたりする効果が期待できますが、過剰に摂取すると中枢神経系の刺激によるめまい、心拍数の増加、不安、震え、不眠のようなマイナスの作用が表れる場合があります。特に子どもには悪影響を及ぼしやすいとされています。
日本では2015年、カフェイン中毒が原因で死亡したとみられる人の事例をメディアが報道したのをきっかけに特に注目を集めるようになりました。
食品安全委員会事務局の渡辺且之氏は「絶対安全という食品はなく、カフェインに限らず量の見極めが重要」と強調します。ただ、カフェインの影響は個人差が大きく、適量と過剰の境界線について科学的な根拠は必ずしも明確ではありません。同委員会はファクトシートの中で、先進各国や国際機関が示している最大摂取の目安を紹介していますが、参考データの位置づけです。
カフェイン対策を意識した商品やサービスも広がってきました。アサヒ飲料は今春、カフェインゼロのブレンド茶「アサヒ 十六茶」のリニューアルに合わせ、子どもが1日に摂取した水分とカフェインの量をチェックできる「カフェインマネジメントブック」を作成し、東京、大阪、名古屋の保育園に無料で配っています。
同社が今春、満3~5歳の子どもを持つ20~40歳代の女性1030人を対象に実施した調査では、子どもの3人に1人がカフェインを含む飲料を飲んでいるとの結果が出ました。マーケティング本部の庄司弘佐課長は「カフェインゼロの飲料は安心だという意識がさらに広がるように啓発活動に努めたい」と話しています。
カフェインの作用について研究している元東京福祉大学教授の栗原久氏は「各種の飲料にはカフェインがどれくらい含まれ、どんな作用があるのかをよく知り、各自が最大摂取の目安を設けるしかない」と呼びかけています。
栗原久・元東京福祉大学教授「エナジードリンクやサプリメントには注意を」
カフェインは健康にどんな影響を与えるのでしょうか。長年、カフェインについて研究してきた元東京福祉大学教授の栗原久氏に聞きました。
――カフェインの研究を始めたきっかけは。
「約40年前、脳に働きかける薬の研究をしているうちに、カフェインに興味を持つようになりました。人間の脳には学習する能力があります。覚醒剤などの薬物で刺激を受けると、その刺激を記憶し、薬物を求めるようになります。脳に働きかける仕組みが覚醒剤とは異なるカフェインには、強い依存性はありません。しかし、過剰に摂取すれば過剰な興奮を引き起こす可能性があり、脳への作用を解明する努力を続けてきました」
「お茶やコーヒーに含まれる天然のカフェイン以上に注意が必要なのが、エナジードリンクやサプリメントに添加されているカフェインです。エナジードリンクをお酒と一緒に飲むと、カフェインによる興奮作用がアルコールの酔いを覆い隠し、お酒を飲み過ぎてしまう人が絶えません」
――カナダ保健省は健康な成人の最大摂取の目安を1日400ミリグラムとしています。
「学界にはカフェインの適量に関する共通の見解はありません。カフェインの影響は個人差が大きく、立証が難しいのです。カナダが示している目安も、コーヒーならマグカップで約3杯までと換算できる量です。実験や統計による厳密な根拠があるわけではなく、経験則に基づく数字でしょう」
――カフェインにはプラスの効果もあるとの声も強いようです。
「成人と子どもに分けて考える必要があります。例えば、仕事をしている人が眠気を抑えるためにコーヒーを飲み、落ちたパフォーマンスを元に戻す飲み方なら悪影響は出ないでしょうが、コーヒーを何杯も飲んで徹夜するようだと過剰摂取になります。一方、子どもにはカフェインは全く必要がないと言ってよいです。子どもが不要な刺激を受けると脳に余計な回路ができてしまい、大人になったときに薬物による興奮を求めるようになる危険性が高まります」
――「カフェインゼロ」を前面に出した商品を販売する飲料メーカーもあります。
「歓迎できる動きですが、消費者としては注意も必要です。子どもにとってはカフェインが含まれず、利尿作用が少ない飲料が望ましいでしょう。例えば、麦茶にはカフェインは含まれませんが、カリウムが含まれるので利尿作用はあります。どの飲料にカフェインがどの程度、含まれているかは広く公開されています。自分と家族の健康を守るために、飲料の成分についての知識を深めてほしいですね」
(編集委員 前田裕之)
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