ゲーム対戦競技の「eスポーツ」を正規のスポーツとみなすかどうかについて、リアルのスポーツ界の議論が五輪からパラリンピックにも広がってきた。五輪の場合はスポーツ離れが進む若者を引き寄せるのが狙いだったが、パラ側の関心は「インクルーシブ(包括)」にある。障害の有無や程度を越えて、ともに競い合うという意味だ。パラの幹部は五輪の議論にも加わっており、eスポーツが両方の壁を崩す可能性もある。
国際パラリンピック委員会(IPC)のハビエル・ゴンザレスCEO(最高経営責任者)は10月19日に東京都内で開いた記者会見で、eスポーツについて「我々の内部で話しているし、国際オリンピック委員会(IOC)の議論にも加わっている」と明かした。「IPCとしての態度は固まっていない」としながらも、関心のあるテーマとして2つを挙げた。
1つ目は、障害のある人もない人も包含できる点だ。パラリンピックには走り幅跳びのマルクス・レーム選手のように五輪出場を熱望しているアスリートもいるが、義足の優位性などを理由に認められていない。eスポーツであれば、手先などでパソコンやコントローラーを動かせる人の、共通のプラットフォームになり得る。
2つ目は、障害者の間の壁を取り払う点だ。IPCはパラリンピックの参加資格がある障害の幅を広げているものの、重度の脳性まひなどは取り込めていない。ゴンザレスCEOは「現在は競技に参加できていない人たちがeスポーツによって、その機会を得られるかもしれない」と述べた。
たとえば、寝たきりの人が目の動きだけでゲームを操作することが考えられる。今のところそうしたゲームは存在しないが、eスポーツの競技団体である日本eスポーツ連合(JeSU、東京・中央)の岡村秀樹会長(セガホールディングス社長)は「センシングなどを使って、より多くの障害者がeスポーツを楽しめる環境を作りたい」と技術開発に意欲を見せる。
もっともeスポーツをスポーツとみなすかどうかについては、IOCと同様、IPCの内部にも否定的な意見がある。チーフマーケティング&コミュニケーションオフィサーのクレイグ・スペンス氏は日本経済新聞のインタビューで、「個人的な見方」と断ったうえで、「eスポーツではなくeゲームスと呼ぶべきだ」と語った。
その理由として、「スポーツは社会に必要なスキル、たとえばルールに従ってプレーすること、どうやって勝ち、どうやって負けるか、チームワークのあり方などを教えてくれるが、eゲームスは根源的にいえば、負ければ電源のスイッチを切るだけで、そうしたスキルが身につかない」と指摘した。
難しいのは、eスポーツが重度の障害者を取り込もうとすればするほど、リアルのスポーツ界から「スポーツとはみなせない」という意見が強まる可能性があることだ。仮に目の動きだけで操作できるようになったとして、日本のあるスポーツ関係者は「体をまったく動かさないことへの抵抗感は強い」と話す。
IPCのゴンザレスCEOは記者会見で「eスポーツの議論はまだ始まったばかりで、結論を得るには時間がかかる」と念押しすることを忘れなかった。eスポーツは五輪の枠に収まりきらない、大きな可能性を秘めている。パラリンピックを巻き込んだ、腰を据えた議論が求められる。
(オリパラ編集長 高橋圭介)