TWICE、成功の秘密 リリースラッシュと控えめ露出
日本でも幅広い世代から愛される存在となっているTWICE。2017年末の『NHK紅白歌合戦』に韓国勢としては6年ぶりとなる出場を果たしてから約1年でここまで大きく飛躍できたのは、他にあまり例を見ないリリースラッシュと露出の絶妙なコントロールでファン層を着実に広げられたことにある。
日本における最初のリリースは、17年6月の『#TWICE』。「TT」ポーズでヒットしたグループの代表曲『TT』を含むこのベストアルバムは、初週13万枚を売り上げ、累計セールスは30万枚を突破、スタートダッシュに成功した。
その3カ月後の10月には日本制作の1stシングル『One More Time』をリリース。サビが4回も出てくるキャッチーなダンスチューンは20万枚を超えるヒットとなった。
一般的に、韓国発のアーティストは日本での活動に十分な時間を割けないため、CDリリースも韓国語曲の日本語版が中心となることが多い。しかし、宣伝戦略を担当するワーナーの藤井之康氏は、「TWICEを日本に根付かせるため、日本制作のオリジナル楽曲を積極的にリリースしていくことが戦略の大きな柱だった」と明かす。
同時に、8月と10月にはCDリリースイベント会を幕張メッセやインテックス大阪などで開催。男性ファンも獲得していく。10月下旬発売の女性誌『ViVi』12月号からは雑誌連載もスタートし、20代女性の間での存在感を強めていった。
アニメMVで世界に発信
『紅白歌合戦』は、その勢いに乗った形での出演だった。同番組による"お茶の間認知"の貢献は言うまでもないが、その熱がまだある2月に日本制作の2ndシングル『Candy Pop』をリリース。同曲はキュートなポップソングで、ミュージックビデオではアニメを使った演出を展開。アニメキャラとして描かれた二次元のメンバーたちと、三次元の実写の本人たちを共演させた。
この取り組みについて藤井氏は、「ジャパンカルチャーであるアニメというアプローチで、キッズ層や海外にまで幅広く届ける意図があった」と話す。実際、中高生に加え小学生たちも、TWICEをまねしたダンス動画をネットに上げる子が増加。アメリカやヨーロッパからも、反応があったという。
また同じく2月からは「ワイモバイル」のテレビCMに出演。TWICEを日本デビューさせたJYPエンターテイメント・ジャパンの斉木亜由美氏は、「携帯電話の学割のCMだったので、中高生のファンを多く持つTWICEを選んでいただきました」と振り返る。しかも同CMは「転校生」篇や「野球部」篇など、計4パターンを5月にかけて次々とオンエア。「これによってお茶の間の認知度がさらに大きく上がりました」(斉木氏)とその手応えを語る。
そして矢継ぎ早に5月には、3枚目となる日本制作のシングル『Wake Me Up』をリリース。この曲は「ワイルドエッジ」というTWICEが本来持つコンセプトを掲げていたこともあり、マネジメントサイドとしては"勝負曲""という位置付けだった。
となれば当然大量の番組出演で攻勢を…と思いそうなものだが、もう1人の宣伝担当であるワーナーの布施奈緒氏は「楽曲とパフォーマンスを1番見せたかったので、あえて今回は露出を絞った」と打ち明ける。今までやっていたワイドショーなどへのコメント出しは一切行わず、『ミュージックステーション』(テレ朝系)のみの出演となった。
そこには、SNS時代のファン獲得戦略もあった。「2月からのテレビCMに加え、4月には韓国でCDリリースがあったため、ファンは韓国の番組に多数触れられる。今はSNSを通じて若い子もリアルタイムで情報に接触できるので、そこはむしろ供給過多にならずに進められたと思っています」(布施氏)。結果、『Wake Me Up』は出荷枚数が52万枚を超え、日本制作のCD作品の中で自己最高を記録している。
9月12日発売の日本初のフルアルバム『BDZ』では、今までにないタイプの楽曲も収録する。映画『センセイ君主』(竹内涼真主演)の主題歌となった『I WANT YOU BACK』は、ジャクソン5の往年の名曲のカバー。「背伸びをしたい時期である中高生に共感してもらえる曲にしたいと、映画会社と相談して英語曲のカバーにしました」(藤井氏)。他にも日本語曲では初のバラードや、ボーカルが次々と変わっていくアッパーチューンなどにも挑んでいる。
9月29日からは日本初のアリーナツアーを行った。毎回、「使える!」「かわいい!」と大評判のツアーグッズについては、こんなことを考えているという。「女性向けのピンクなどに加えて、男性でも違和感なく着られる黒や紺色のベースのTシャツも展開してきましたが、新たにキッズ用のTシャツも販売する予定です」(斉木氏)
新たな魅力が楽しめるアルバムに、それを五感で楽しめるツアーと、TWICE旋風はまだまだこの先も吹き続けそうだ。
(ライター 中桐基善)
[日経エンタテインメント! 2018年10月号の記事を再構成]
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