薬を嫌がる子ども どのくらい飲めれば大丈夫?
子どもへの薬の上手な飲ませ方(1)
「子どもがなかなか薬を飲んでくれない」――、こんな悩みを持つ人は少なくないでしょう。そこで、小児科門前の薬局で子どもの服薬指導に日々奮闘する薬剤師で、『極める!小児の服薬指導』(日経BP社)の著者でもある松本康弘さんに、子どもに薬を飲んでもらうための工夫を紹介してもらいます。明日から使える具体的なノウハウ満載です。
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薬を子ども(特に乳幼児)に飲ませる苦労は、子育てを経験したことがない方にはなかなか分からないと思います。かく言う私も、薬局に勤務するようになるまで、自分の子どもに薬を飲ませたことはなく、その大変さには気付いていませんでした。
正論の指導に追い詰められている親は少なくない?
しかし、子育て中の同僚の薬剤師に聞くと、朝、保育園に連れて行く前に薬を飲ませるのはひと苦労だそうですね。「子どもは機嫌が悪いとそっぽを向くし、他のことをしていれば嫌がって泣き出すし……。仕事が始まる時間を気にしながら、身支度もしなくてはなどと毎日焦っています」。これは仕事をしているお父さん、お母さんにとってはよくある光景だと思います。
また、保育園で子どもが熱を出せば、仕事を中断して保育園に駆けつけ、その後、小児科を受診するわけです。そこで散々待って診察を受け、処方箋をもらって薬局に来ます。
その薬局で、「お薬は必ず飲ませてくださいね」と言われ、家に帰って子どもに飲ませようと頑張るものの、嫌がって泣かれる。そんなことをしていたら夕食の準備もできない……。
われわれ、小児科の処方箋を受け取る薬剤師は、何とか薬を飲んでもらいたいと思い、「ゼリーに混ぜて」とか、「ジュースに混ぜて」とか、「少量に分けて」とか毎回必死で説明します。でもある時ふと、「こういう指導はお父さんやお母さんを逆に追い詰めているのではないか」と感じたのです。
薬はだいたい飲めば、効果は得られる!?
そう考えた時に、結婚式でよく聞く吉野弘氏の『祝婚歌』の一節を思い出しました。
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気付いているほうがいい」(『祝婚歌』より、一部を引用)
まじめな親御さんは、ジュースに溶かした時の残りかすも気にします。そんな親御さんに対して服薬指導という正論をかざして、追い詰めてしまっていないか――。
そう悩んでいた時に参考になったのが、患児の服薬アドヒアランス[注1]とその後の症状の変化を調べた研究です。予想通り、「服薬できた」子と「あまり服薬できなかった」子では、症状悪化や不変を訴えた割合が有意に後者の方が多くなっていましたが、興味深いのは、「服薬できた」子と「だいたい服薬できた」子の差には有意差がなかった点です。つまり、服薬はパーフェクトでなくても、だいたい飲めれば効果は得られるのです。
このことから私は、「お薬飲めていますか?」と聞いて、困った顔をする親御さんには「だいたい飲めていれば大丈夫ですよ」と言っています。「むしろ一度失敗しても諦めないことの方が大事ですよ」と伝えています。
ただ、この論文をじっくり読むと、服薬時のアドヒアランスと再診時の症状変化がより詳しく表になって載っていました。表ではちょっと分かりにくいので図にしてみました。すると、確かに症状不変と悪化の割合には大きな差はありませんが、「改善」を見ると「だいたい服薬できた」が「服薬できた」より、劣っていました。
これを見ると、安易に「だいたい飲めればいい」と言うのはやや言い過ぎなような気もします。個人的には、「だいたい飲めれば良くなりますよ、でも、しっかり飲ませてあげた方が早く保育園に行けますよ」とお伝えするのが一番かなと思っています。
こんなふうに、今日も悩みながら、親御さんたちに服薬指導をしています。
[注1]服薬アドヒアランス:薬の作用や副作用について納得した上で、患者自身が主体的・能動的に服薬を行うこと
[『極める!小児の服薬指導』(日経BP社)より再構成]
ワタナベ薬局上宮永店(大分県中津市)。1956年生まれ。熊本大学薬学部卒業後、大手製薬企業の研究所勤務を経て、2001年に株式会社ワタナベに転職。最初に配属された店舗で、小児の服薬指導の難しさや面白さに魅せられ、患者指導用のパンフレットの作成などを積極的に行うようになった。小児薬物療法認定薬剤師。著書に『極める!小児の服薬指導』(日経BP社)。
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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