前野先生は「人は努力次第で変われるし、幸せになれるのだということを誰もが実感できる社会にしていきたい」という

白河 経営者は語れる言葉をもっと持たないといけない。特にサラリーマン社長にとっては課題だと感じます。

前野 ぜひ語ってほしいですし、社員を幸せにできる言葉を持つリーダーが評価される体制をつくってほしいですね。短期的な業績よりも、長期的な企業価値を高めるリーダーがたたえられる企業文化が育っていけば、幸せに働ける人はもっともっと増えていくはずですから。

きれいごとを経営者は語るべき

白河 働く人を幸せにできない企業はいずれ淘汰されるのでしょうか?

前野 長期的には淘汰されていくでしょうね。ただ、短期的にはもうかって株主から評価されたりする。社会全体が見る目を養わないといけませんね。

白河 私が「社員の働きがいや幸せを第一に」と企業にお伝えしていると、「とはいっても、きれいごとだけでは済まないんだよね」と言われるのですが。

前野 それはあまりにも近視眼的だと思います。「きれいごとは置いといて、現実はさ」なんて言う人に伝えたいのは、きれいごとと現実は別物かもしれないけれど一直線上で考えるべきだということ。目の前の現実と目指すきれいごとを同時に考えていくのが経営者の役割だと僕は思いますね。きれいごとのない経営なんて、経営じゃないですよね。

白河 現実ときれいごとをつなげる努力をしなければいけないと。あと、「幸福」という表現がどうも経営とそぐわないらしく、「健康経営」と言った方が受け入れてもらいやすい。どう思われますか?

前野 僕も随分言われましたよ。「幸福経営学」って宗教っぽいしよくわからないから「ウェルビーイング」くらいにしたらどうですか?とか。ウェルビーイングという言葉も悪くはないのですが、やはりズバリの「幸福」という言葉を貫いてきてよかったなと思っています。いくらたたかれようと、「そう言っているあなたの視野が狭いんじゃないんですか?」ときちんと反論できるので。

白河 なるほど。やはり、「きれいごとを貫く」姿勢なんですね。最後に、今、働き方改革のキモといわれているのが、経営者の下の階層で現場を握っている中間管理職ですが、彼らから幸福経営についての理解・賛同を得るにはどうしたらいいのでしょうか?

前野 まずエビデンスもセットにして幸福学を理解していただくことが一つ。詳しくは著書で説明していますが、「やってみよう!」「ありがとう!」「なんとかなる!」「ありのままに!」という「幸せの4つの因子」について学ぶことから始めてほしいですね。そして、現状の立場に甘んじずに、経営者視点で「組織を長期的によくするにはどうしたらいいか?」と考え、部下の前で「きれいごと」をどんどん言ってほしいと思います。

白河 地位財(所得、社会的地位、物的財など)的な幸福を追求して今があるような世代の人たちを、どう巻き込むかがポイントになる気がします。

前野 その人が歩んできた人生を全否定するような言い方はよくありませんよね。「今まではそれでよかった。でもこれからは変えていかないとダメなんです。人とつながりを持って、やりがいのあるテーマを見つけないと、あなた自身の定年後の生活も孤独なものになりますよ」と自分事として意識させていく。

白河 なるほど。前野先生が管理職向けにそう話すと、聞く耳を持ってくれますか?

前野 割と聞いてくださいますね。だって、同じおじさんが愛を持って伝えていますから(笑)。ちゃんと寄り添って、納得してもらうと、だんだん表情も柔らかくなってきます。僕もね、この研究を始めた10年ほど前は、笑顔測定器の前で笑っても80点くらいしか取れなかったんです。女子大生はすぐに100点取れて、他の教授は60点くらいでしたけれど。そこから僕自身もより幸せになっていこうと努力を続けて、今やニコッとするだけで一発100点になりました。人は努力次第で変われるし、幸せになれるのだということを誰もが実感できる社会にしていきたいですね。

あとがき:働き方改革で残業は減った、それで終わりでは一番おいしいところを逃しています。その先にあるものは働きやすさと働きがいが好循環して、会社の成果につながる、そんな姿でしょう。この連載でも取材しましたが、日立製作所の矢野和男さんが計測するチームの幸福、グーグルが調査する心理的安全性など、確実に人材に対する企業のあり方が変わってきているのを感じます。特に人的資源管理では「性悪説」から「性善説へ」、「管理」から「エンパワーメント」への流れがあります。最新のHR(人事)の世界ではCEEO(chief employee experience officer)という役職が登場しているそうです。社員がいかにその企業においてすばらしい体験ができるかに責任を持つのです。人的資源の管理者を意味する「CHRO(chief human resoruce officer)」からCEEOへ。「働きやすさ」と「働きがい」両方を追求することが、働き方改革の成果に直結する時代です。

白河桃子
 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大客員教授。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。東京生まれ、慶応義塾大学卒。著書に「『婚活』時代」(共著)、「妊活バイブル」(共著)、「『産む』と『働く』の教科書」(共著)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。最新刊は「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)。

(ライター 宮本恵理子)

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