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きれい事でも… 社員の幸せ考えるのが経営者の役割

前野隆司慶応義塾大学大学院教授(下)

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NIKKEI STYLE

社員を幸福にするために、企業の経営者、管理職はどうすればいいのか。社員自身は仕事にどう向き合うべきか。前回の記事「社員の幸福が経営を左右 ときめかない仕事は捨てよう」に引き続き、日本における「幸福学」の第一人者で、「幸せの経営学」をテーマに企業組織の幸福度を上げるためのコンサルティングも手がける、慶応義塾大学大学院の前野隆司教授に伺いました。

幸福になれる才能がある?

白河桃子さん(以下敬称略) 先日、ポジティブ心理学の権威と言われる米国人研究者、セリグマン氏が来日した時に前野先生と対談されていましたよね。米国はじめ世界的にみてもポジティブ心理学や幸福学を重視する動きは目立ってきているのでしょうか?

前野隆司さん(以下敬称略) ポジティブ心理学をはじめ、ハピネスやウェルビーイングを冠した分野は盛り上がっていますね。特に進んでいるのは米国で、やはり米国人は「ハッピー」になるのが好きな国なのでしょうか。ヨーロッパの方はややシニカルでしたが、最近は進み始めました。そして今、やっと日本が進みかけているという段階ですね。浸透度には差があります。

白河 日本でも徐々に企業が関心を持ち始めた印象はあります。長時間労働が常態化していた某大手広告会社では、社員の毎日の状態をパソコン上でチェックしてデータを蓄積し始めています。天気予報マークで社員個人やチームの状態をヒアリングする取り組みだそうです。人事分野でIT(情報技術)により課題を解決するHRテックの導入が盛んですが、前野先生のもとにも共同研究や調査の依頼が増えていますか?

前野 たくさんいただいています。一昔前にも、ES(従業員満足)の調査ははやりましたけれど、そのときは職場や仕事内容、上司への満足度への指標止まりでしたよね。今はアンケート測定の精度も上がりましたし、テクノロジーで測定できるようになった変化は大きいと思います。

高度な顔認識技術を使えば、常設カメラを設置するだけで、秒単位で社員の幸福度を測定することも十分可能です。おそらく、公式に発表していないだけで、アマゾン・ドット・コムやグーグルはすでに始めているのではないでしょうか。例えば表情や心拍数から社員の幸福度をリアルタイムで測って、「あなたは今日、ちょっと調子が悪いので、17時には帰ってください」というサインが送られてくるとか。今すぐにでも可能なシステムだと思いますよ。

白河 幸福度が測れる時代になってきたと。さらに、幸福度は個人が努力して高めることも可能なんですよね?

前野 専門的には「介入できる」ということですね。幸せの感じやすさというのは、先天的な部分と後天的な部分が半々くらいあって、心配性な遺伝子を持っている人はやはり幸福を感じにくいといわれています。幸福になれる才能が存在するんですね。でも、半分は後天的要素で決まるので、誰もがより幸せになれる。

やりたい仕事に没頭している人の幸福度は高い

白河 才能がなくてもできるんですね。どんなことをお勧めしていますか?

前野 「口角を上げる」「胸を張る」といった簡単なテクニックもありますが、一番大事なのは、本当にやりたいことを見つけ、本当に信頼できる仲間を見つけることですね。そのためには、自分が心から夢中になれる対象を特定するための振り返りや内省する時間をもつことが必要で、僕のワークショップではその介入を手伝うトレーニングを行っているんです。

調査をしてみるとよく分かるのですが、人生を賭けてやりたい仕事に没頭できている人の幸せ度は高いですよ。でも、そういう人はほんの一握りであって、大多数の人は「仕事はまあまあ面白い」くらいで、幸せ度もまあまあです。「やりたくない仕事をやっている」人は不幸せですね。だから、仕事にワクワク取り組める自分になることが重要です。

そのためのカギになるのは仲間で、本当に心を開ける仲間を見つけるのか、今いる仲間とよりよい関係を築いていくのか、どちらかの努力をしたほうがいいと思います。

白河 日本人は「やりたい仕事」を見つけるのが苦手ですよね。学生から話を聞いていても、「やりたいことが見つかりません」という声が多いです。私の友人に「やりたいことは見つからないけれど、人の夢のサポートをするのが好き」という人がいるのですが、それでもいいのでしょうか。

前野 「私は人の夢を応援するのが好きなの!」と毎日公言できるくらい好きであれば、幸福度は上がると思いますよ。ただ、「自分のやりたいことが見つからないから、仕方なく他人の夢に寄り添う」程度の動機なら、それほど期待できないでしょうね。それくらいなら、「時間がかかってもいいから、心から夢中になれることを探しましょうよ」と僕は言いたいですね。落ち込む必要はなくて、人生の旅は長いのでたっぷり時間を使えばいいんですよ。

白河 なるほど。先生が実施している企業向けのワークショップというのはどんな内容を。まず幸福度の測定をなさるんでしょうか。

前野 その前にまず「幸福学」と仕事の関係性についてしっかりお話しします。健康セミナーと同じで、幸せになることでどんなメリットがあるのかをまず頭で理解してもらってから、幸福度を測定してもらいます。

それから、いろんなワークを実践してもらった後に、再度測定して変化を感じてもらう。ワークというのは、感謝を思い出して伝えるワークだったり、夢について語るワークだったり、自分の過去の転機を遡って書き出すワークだったり。さらに、自分が気づいていなかった強みを発見するワークもやっていますね。「自分自身を深く掘り下げる」作業をいろんな角度から体験してもらうんです。

幸せにも多様性がある

白河 やはり自分をよく知ることがスタートになるのですね。社員の満足度が高い企業を取材していて気づいたのは、個人のコアバリューと企業のコアバリューが合致した時に、個人のやりがいや生産性は高まるのだなと。

一方で、日本人はありのままの自分を打ち消して企業の方針に過剰適応することもあるから、やりがい搾取型のブラック企業とホワイト企業は紙一重だなと感じることもあるんです。社員全員が起立して社是を声高らかに唱和する会社は、ホワイトにもブラックにも転がり得る気がして。

前野 おっしゃる通りだと思いますね。

白河 両者の違いは何だと思われますか?

前野 社長自身に嘘がないかの違いだけだと思います。社是の唱和を「本気で社員を幸せにするため」にやっているのか、「単にもうけたいため」にやっているのか。その違いは社長の普段のちょっとしたひと言や振る舞いに表れるのではないでしょうか。

白河 バックにある思いが本物かどうかということですね。

前野 さらにいうと、幸せの感じ方が100人100様であるように、「何をもって幸せと言うか」というのも会社の数だけ違うんです。例えば、米国で言われるハッピー企業と日本的幸福企業とでは、ニュアンスがかなり異なると思っています。

米国的ハッピー企業はハッピーの語源が「happen」と同じであるように、何か特別なことが起きてワクワクするような雰囲気ですね。「イエーイ!」とハイタッチするような場面をハッピーとみなす。一方で、日本人は「あなたがいてくれて幸せだよ」みたいなしみじみとした喜びの分かち合いが「幸せ」と直結することが多い。これらのどっちが正しいということではなく、要は幸せの多様性です。

洗脳と一致団結は紙一重

白河 型にハマって考え過ぎてはダメなんですね。はた目には「これ、洗脳じゃないかな?」と思ってしまうシーンもあるのですが、目指す幸せの形は会社によって違うのだと考えたほうがいいですね。

前野 そうですね。でも、「洗脳」というのも単に捉え方であって、冷静に考えれば、アスファルトを敷き詰めてコンクリートに囲まれて暮らすことをよしとする現代の生活も「洗脳」ですよね。

悪く言うと「洗脳」、もう少しマイルドに言うと「依存症」、良く言うと「一致団結」みたいな。単に呼び方の違いであって、脳が動いているメカニズムとしてはそれほど変わらないんですよ。

白河 経営者が社員を利用しようとしていたら悪だけれど、みんなにとって良い理想を掲げてのことであれば素晴らしい取り組みになる。個人も、その違いを見極める目を鍛えないといけないですね。

前野 そういう時代になっていると思います。

白河 経営者は語れる言葉をもっと持たないといけない。特にサラリーマン社長にとっては課題だと感じます。

前野 ぜひ語ってほしいですし、社員を幸せにできる言葉を持つリーダーが評価される体制をつくってほしいですね。短期的な業績よりも、長期的な企業価値を高めるリーダーがたたえられる企業文化が育っていけば、幸せに働ける人はもっともっと増えていくはずですから。

きれいごとを経営者は語るべき

白河 働く人を幸せにできない企業はいずれ淘汰されるのでしょうか?

前野 長期的には淘汰されていくでしょうね。ただ、短期的にはもうかって株主から評価されたりする。社会全体が見る目を養わないといけませんね。

白河 私が「社員の働きがいや幸せを第一に」と企業にお伝えしていると、「とはいっても、きれいごとだけでは済まないんだよね」と言われるのですが。

前野 それはあまりにも近視眼的だと思います。「きれいごとは置いといて、現実はさ」なんて言う人に伝えたいのは、きれいごとと現実は別物かもしれないけれど一直線上で考えるべきだということ。目の前の現実と目指すきれいごとを同時に考えていくのが経営者の役割だと僕は思いますね。きれいごとのない経営なんて、経営じゃないですよね。

白河 現実ときれいごとをつなげる努力をしなければいけないと。あと、「幸福」という表現がどうも経営とそぐわないらしく、「健康経営」と言った方が受け入れてもらいやすい。どう思われますか?

前野 僕も随分言われましたよ。「幸福経営学」って宗教っぽいしよくわからないから「ウェルビーイング」くらいにしたらどうですか?とか。ウェルビーイングという言葉も悪くはないのですが、やはりズバリの「幸福」という言葉を貫いてきてよかったなと思っています。いくらたたかれようと、「そう言っているあなたの視野が狭いんじゃないんですか?」ときちんと反論できるので。

白河 なるほど。やはり、「きれいごとを貫く」姿勢なんですね。最後に、今、働き方改革のキモといわれているのが、経営者の下の階層で現場を握っている中間管理職ですが、彼らから幸福経営についての理解・賛同を得るにはどうしたらいいのでしょうか?

前野 まずエビデンスもセットにして幸福学を理解していただくことが一つ。詳しくは著書で説明していますが、「やってみよう!」「ありがとう!」「なんとかなる!」「ありのままに!」という「幸せの4つの因子」について学ぶことから始めてほしいですね。そして、現状の立場に甘んじずに、経営者視点で「組織を長期的によくするにはどうしたらいいか?」と考え、部下の前で「きれいごと」をどんどん言ってほしいと思います。

白河 地位財(所得、社会的地位、物的財など)的な幸福を追求して今があるような世代の人たちを、どう巻き込むかがポイントになる気がします。

前野 その人が歩んできた人生を全否定するような言い方はよくありませんよね。「今まではそれでよかった。でもこれからは変えていかないとダメなんです。人とつながりを持って、やりがいのあるテーマを見つけないと、あなた自身の定年後の生活も孤独なものになりますよ」と自分事として意識させていく。

白河 なるほど。前野先生が管理職向けにそう話すと、聞く耳を持ってくれますか?

前野 割と聞いてくださいますね。だって、同じおじさんが愛を持って伝えていますから(笑)。ちゃんと寄り添って、納得してもらうと、だんだん表情も柔らかくなってきます。僕もね、この研究を始めた10年ほど前は、笑顔測定器の前で笑っても80点くらいしか取れなかったんです。女子大生はすぐに100点取れて、他の教授は60点くらいでしたけれど。そこから僕自身もより幸せになっていこうと努力を続けて、今やニコッとするだけで一発100点になりました。人は努力次第で変われるし、幸せになれるのだということを誰もが実感できる社会にしていきたいですね。

あとがき:働き方改革で残業は減った、それで終わりでは一番おいしいところを逃しています。その先にあるものは働きやすさと働きがいが好循環して、会社の成果につながる、そんな姿でしょう。この連載でも取材しましたが、日立製作所の矢野和男さんが計測するチームの幸福、グーグルが調査する心理的安全性など、確実に人材に対する企業のあり方が変わってきているのを感じます。特に人的資源管理では「性悪説」から「性善説へ」、「管理」から「エンパワーメント」への流れがあります。最新のHR(人事)の世界ではCEEO(chief employee experience officer)という役職が登場しているそうです。社員がいかにその企業においてすばらしい体験ができるかに責任を持つのです。人的資源の管理者を意味する「CHRO(chief human resoruce officer)」からCEEOへ。「働きやすさ」と「働きがい」両方を追求することが、働き方改革の成果に直結する時代です。

白河桃子
 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大客員教授。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。東京生まれ、慶応義塾大学卒。著書に「『婚活』時代」(共著)、「妊活バイブル」(共著)、「『産む』と『働く』の教科書」(共著)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。最新刊は「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)。

(ライター 宮本恵理子)

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