「それで『私、こんなに好きだったんだなあ』と思うことができて、代表のオーディションを受ける覚悟を決めました。落ちたら新体操をやめようと思って臨みましたが、合格して日本代表としての生活が始まりました」

「はっちゃける場所が東京にもっとあっていい」と語る畠山さん

――日本代表が練習拠点としていたロシアは、新体操王国といわれます。学ぶことは多かったですか。

「同じ競技とは思えなかったですね。日本では、きっちりと正確に演技することを心がけていましたが、ロシアでは『ミスをしてもいいから、とにかく伝える演技をしなさい』と指導されました。新体操は芸術スポーツ。見てもらう競技ですからコーチには『練習中もメークをして、きれいにしていなさい』とか『恋愛もしなさい』と言われました。新体操がより楽しくなりました」

――ロシアでの指導は厳しかったですか。日本のスポーツ界は今、パワハラ問題に揺れています。

「指導者は厳しくていいと思います。でも、その厳しさの中に愛情があって、その愛情を選手が感じていれば、厳しさをパワハラと感じることは一切ないでしょうね」

「ロシアのコーチも厳しかったです。でも練習以外ではお母さんのような存在でした。本来は日本代表は(国際大会で競い合う)敵なのに、人に紹介するときも『私の子たちよ』と言ってくれる先生でした」

――日本が五輪でメダルをとるには何が必要だと感じますか。

「日本は大きなミスはしません。その演技の正確さは日本の良さです。だから五輪でもノーミスの演技をするのが(メダル獲得の)絶対条件。でも、五輪でメダルをとるためには、もうひと押しが必要だと思います」

「そのためにはもっとリスキーな技を入れなければいけない。強豪国はちょっとでもタイミングや投げる場所がずれるだけで大きなミスにつながる演技をしてくる。それは見ているこちらが息をのむほどです。一方で日本は無難にノーミスの演技をする国。正直に言えば、日本は観客に『わあっ、今の演技は何なの』と言わせられる水準ではありません。危険をおかすほどの演技が今の完成度でできれば、チャンスはあると思います」

自国の選手以外にも声援送って

――東京生まれのオリンピアンとして、2年後の五輪では東京がどんな街であってほしいですか。

「開催都市の印象はボランティアの方々が決めると思います。リオでは、お国柄でしょうか、選手村で掃除をしてくれる人、食事を提供してくれる人、皆さん、とてもフレンドリー。掃除をしながら声をかけてくれたりして、こちらも明るい気持ちで試合に臨むことができました」

「リオの競技会場では、観客の優しさにも触れることができました。自国の選手以外でも、よい演技があれば、心から『よかったよ』というリアクションをしてくれました。日本人は日本の選手ばかりを応援してしまいがちですが、東京大会では是非、海外の選手の演技やプレーにも拍手や歓声がわき上がってほしいですね」

――ロンドンはどうでしょうか。

「ロンドンの人たちは障害を抱えている人への手の差し出し方がわかっていて、しかも自然なんですよ。これは今年の春にロンドンマラソンを取材したときの印象です。目が不自由な選手がトイレで手を乾かすところがわからないとき、その選手の手を自分の肩に載せて、誘導してあげている人を見ました」

「試合中も障害者アスリートが走ってくると、大きな歓声があがりますね。子供に『どの選手が好き?』と聞いたら、すぐにパラリンピアンの名前が出てきて、ここが格好よくて、ここが好きと話し始めます。パラリンピアンがリスペクトされていると感じました」

海外のクラブは日本のカラオケ

――東京は夜の街を楽しむ機会や場所が少ないという指摘がありますが、どう感じますか。

「確かにそうですね。日本ははっちゃける(はしゃぐの意味)雰囲気で楽しめる場所が少ないかもしれません。新体操は試合後に(選手が参加する)パーティーがあります。日本ならば、落ち着いたパーティーを想像するかもしれませんが、海外では(お酒を飲みながら音楽に合わせて踊る)クラブに近い雰囲気です。海外から東京に来る人たちは、そういう場所を求めていると思いますよ」

――選手にも試合後はオンとオフを切り替え、はしゃぎたい気持ちがあるのですね。

「海外の新体操選手は、私生活でもクラブによく行っています。彼女らがインスタグラムに載せている写真を見ると、日本人のカラオケのような感覚だと思います。女性だけで曲に合わせて、好き勝手に楽しく踊っていますよ」

(聞き手は山根昭)

畠山愛理
1994年8月、東京都生まれ。2017年日本女子体育大卒。09年に新体操日本代表「フェアリージャパン」に入り、12年ロンドン五輪では団体で7位入賞。15年世界新体操選手権では団体種目別リボンで銅メダル。16年リオデジャネイロ五輪出場後に引退。現在はNHK「サンデースポーツ2020」、BSテレビ東京「バカリズムの30分ワンカット紀行」などに出演中。

日経からのお知らせ 日本経済新聞社は11月1日、2020年東京五輪・パラリンピックの開催都市、東京がいかに利便性や先進性などを高められるのかを考える第4回日経2020フォーラム「ホストシティ・東京の未来」を開催します。菰田正信三井不動産社長と中山泰男セコム社長が東京五輪後も見据えた再開発や都市の安心・安全をテーマに基調講演。梅沢高明A.T.カーニー日本法人会長や野焼計史東京メトロ常務、長谷部健渋谷区長、元新体操日本代表の畠山愛理氏によるパネル討論も予定しています。同フォーラムの模様は日経の映像コンテンツサイト「日経チャンネル」で、ご覧いただけます。