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産む前に「復職後」示す JICAのフェアな女性登用

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日経DUAL

男性と同等かそれ以上に働いてきた女性の多くが出産後、仕事に復帰したときに壁にぶつかります。補助的な業務に配置転換になったり、もしくは同じ部署でも出張の機会が減ったり……。ワーキングマザーが育児中にもモチベーションを維持し、昇進の見通しを失わず、「マミー・トラック」に陥らないで働き続けるためにはどうしたらいいのでしょう。女性の働き方に詳しい研究者でジャーナリストの治部れんげ氏が、国際協力機構(JICA)の人材マネジメントを例に説き起こします。

  ◇  ◇  ◇  

必要とされる「フェアネス」は人員構成とアサインメント

筆者が知人の依頼でJICA労働組合主催の「働き方」セミナーで司会役を務めたときのこと。JICA研究所長の萱島(かやしま)信子さん、審査部環境社会配慮審査課課長の永井進介さんからキャリアや家族生活の両立について興味深い話を聞いた。

萱島さんは、かつてバングラデシュに勤務した際、2人いるお子さんのうちの一人を同伴したそうだ。もう一人のお子さんは夫と日本に残った。「子育ては大変なこともありますが、子どもがいるから頑張れることもあると思います」という言葉には説得力があった。

永井さんは、かつて世界銀行に出向しワシントンD.C.で勤務した際、職場と交渉して妻の育休時期とタイミングを合わせたという。今は共働きで2人のお子さんを育てるため、勤務地を国内の首都圏に限定している。一方で仕事上での成果が認められ、昇進も果たした。男性も家庭責任を果たしながらキャリアを諦めなくてもいいことを体現していた。

JICAと言えば、一般には青年海外協力隊のイメージが強い。また、JICAは日本政府の看板を背負い、政府開発援助(ODA)を実施する。途上国支援の仕事で多忙は当たり前。海外勤務も多い。きっと男性が多い職場なのだろう……と思っていたら、実態はまるで違っていた。

JICAの「フェアネス」は2つ。1つ目は採用における男女平等である。フェアな採用が男女ほぼ半々の「入職」につながる。自然、共働き子育て層も増えていく。2つ目はアサインメントだ。性別でなく実力や適性で仕事を割り振る風土が働きながら子育てする親のやる気を引き出す。

「1800人いる総合職のうち、4割が女性です。新卒採用でも約半数が女性です」とJICA人事部給与厚生課の福澤叔子さんは話す。

人口構成を見ると、現在の40~50代は男性が多いが、30~40代は男女間の人数の差が少なくなる。JICA職員同士の結婚も多く、配偶者の海外勤務と合わせて出産し、育休を取得するケースも珍しくない。人材マネジメントの特徴は「男女を問わず仕事をアサインすること。管理職登用の条件に在外勤務経験があること」(福澤さん)である。前出の萱島さんは30年以上前に入職した際、予想していた「お茶くみ」がなかったことに驚いたそうだ。「当時から男女平等でした」と話す。

通常、国内で2年ずつ、2つの部署を経験した後、5年目に海外赴任する。海外勤務は概ね27~30代前半となり、妊娠・出産などのライフイベントと重なりやすい。組織内では、近年、結婚年齢が早まっているような印象があるそうだ。育児とキャリアは、もはや二者択一ではなく、両方手に入れるものになりつつある。

男性職員も自分のキャリアと家族を大事に

もともと、1~2歳の子どもがいる人の海外出張は珍しくない。小学3年生以下の子どもを伴っての海外勤務は、ベトナム、マレーシア、セネガル、ケニア、パキスタン、メキシコと世界各国に及ぶ。人事部の福澤さん自身、JICA職員同士の結婚で育休中にパキスタンに在住したことがある。

女性総合職が多いこと、結婚・出産とキャリアの両方を求める人が男女共に少なくないことは、組織と働く人の家庭の双方に男女平等化をもたらす。それは女性活躍のため、というより「組織を回していくため、それが切実に必要だったから」(福澤さん)である。

その結果、男性の海外赴任に女性がついていくだけでない、多様な働き方が広まった。例えばある女性職員は20代で出産。彼女が海外赴任した際は、夫が仕事を辞めて付いていき、現地で仕事を見つけた。海外留学した際は、再び夫が付いていったという。別の夫婦の場合には、妻の海外赴任に夫が休職して付いていった。その後、この男性は管理職に昇進している。

冒頭に紹介した萱島さんのように、子連れ単身赴任も珍しくない。永井さんのように配偶者のライフイベントと海外赴任のタイミングを合わせたり、共働き子育て生活を安定させるため、勤務地を限定した働き方を選んだりすることもある。重要なのは、配偶者の仕事に合わせて休みを取ったり仕事のやり方を調整したりするのが、女性だけではないことだ。男性も必要に応じて休みを取り、妻のキャリアを支える。

「男性職員も、自分のキャリアを大事に思うからこそ、家族も大事にする、という価値観を持つ人が多い」(人事部次長の吉成安恵さん)

国際協力という職務上、キャリアのどこかに海外赴任があることを、総合職なら意識している。中には留学する人もいる。夫婦がお互いに「次は自分が休みを取る」「ならばその次は自分がサポートに回る」と考えて調整することが多い。

「資生堂ショック」の背景にあった問題点

話を聞いて思い出したのは、数年前に起きた「資生堂ショック」のことである。女性活用の先進企業として知られる資生堂で、子育て中の女性社員が増えたことから、美容部員の勤務シフトに支障が出てきた。夜間や土日に独身や子どものいない女性だけが働くようになると、不公平感が募る。結果、会社側は子どもを持つ女性にも、夜間休日のシフトに入ってほしいと要請することになった。

これを「ショック」と呼んで子育て女性に同情する論調は、感情的には理解できるが、それでは解決にならない。女性社員が増えていき、出産で辞めなくなれば、こうした事態が起きることは容易に予想できた。根本的な問題は、仕事で求められることと報酬の関係が不明瞭であったことである。

もし、夜間や土日の勤務が必須であるにもかかわらず、その時間帯に働ける人が足りないなら、給与体系を変更して夜間・休日に割増手当をつけるのが筋だろう。これは経済の論理である。もう一つ、社会責任の論理を言うなら、本当に夜間・休日の営業が必要なのか、考えてみることも必要だ。消費者にとっての便利と労働者が家族と過ごす権利がトレードオフになっている場合、どちらを優先するか、大いに議論の余地がある。

いずれにしても、組織内で女性が一定割合を超え、出産・育児で辞めなくなったとき、資生堂と同種の問題は、他の組織でも高い確率で起きるはずだ。JICAでも似たような問題が起き、人材マネジメントが変わっていった、という。

出産後の女性総合職に期待役割を明確に伝えることの必要性

今は出産を控えた女性職員に人事部が説明をする。見せるのは組織内の人口構成である。女性職員は出産後も就業を継続する。つまり、自分の後輩も出産後に復職してくる。従って、復帰後しばらくは女性を補助的な業務に就けることができるが、長期的にはキャリアトラックに戻る必要がある。

大事なのは、こうした情報を「産む前」に伝えることだ。それも、できるだけ早い時期に配偶者同席のもと、伝えることに意味がある。組織は単に復職することではなく「キャリア」を継続することを求めていること。そのためには、ワンオペ育児ではなく夫婦で協力して育児をする必要があること。夫婦共に育児とキャリアをあきらめないため、お互いが真の意味で支えあうこと――。

平均的な日本の企業社会と比べると進んでいるように見えるJICAの人材マネジメントだが、課題はある。例えば、諸手当。女性職員が単身子連れで海外赴任した際、月額2万~10万円に上るシッター代への補助はない。現地滞在中に長期出張が必要になったらどうするのか。また、治安面で緊急事態が発生したらどうするのか。JICA職員の赴任地は途上国や中進国であるため、こうした心配も絶えない。

働き方の実態が多様化する中、専業主婦の配偶者がいる男性を想定した人事制度が追い付かなくなっているのは、JICAに限った話ではない。国際機関や欧米先進国の大使館では、夫婦どちらかが海外赴任する際、もう片方のために仕事を用意することも珍しくない。夫婦または同性同士のパートナーが、ともにキャリアを持っている前提で制度設計がなされている。

現時点で、筆者の知る限り、出産後の女性総合職に期待役割を明確に伝える日本の雇用主は、まだ、多くない。JICAが子育て世代の職員に明確なメッセージを送っていることは、注目すべきと言える。抽象的な女性活躍や管理職登用の数値目標を掲げるだけで、女性リーダーは増えない。その仕事で期待されるもの、キャリアの道筋をはっきりと伝えること。実現にはフェアな職場環境と対等な夫婦関係が必要であることを教えてくれる貴重な事例だ。

ちょうど10年前、アメリカの共働き子育て夫婦の事例を取材して本にした。専門職・管理職として働きながら子育てしている女性とその配偶者にインタビューしていると、男女で柔軟に役割交換する例が多いことに気づいた。母親だけでなく父親も、育休や時短勤務を取ったり、仕事量をセーブしたりする。ワンオペ育児問題を超えた数歩先に、ワーキングマザーが活躍できる環境がある。今回の取材で、日本の組織でもそれが可能と分かったことがとても嬉しい。

治部れんげ
 1997年、一橋大学法学部卒。日経BP社にて経済誌記者。2006~07年、ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年よりフリージャーナリスト。2018年、一橋大学経営学修士課程修了。日経DUAL、Yahoo!ニュース個人、東洋経済オンライン、Business Insider等にダイバーシティ経営、男女のワークライフバランス、ジェンダー平等教育について執筆。現在、昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。東京大学情報学環客員研究員。日本政府主催の国際女性会議WAW!国内アドバイザー。東京都男女平等参画審議会委員(第5期)。公益財団法人ジョイセフ理事。一般財団法人女性労働協会評議員。著書に『炎上しない企業情報発信:ジェンダーはビジネスの新教養である』(日本経済新聞出版社)、『稼ぐ妻 育てる夫:夫婦の戦略的役割交換』(勁草書房)など。2児の母。

[日経DUAL2018年9月14日付けの掲載記事を基に再構成]

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