「シワのある皮膚と、シワがない皮膚とでは何が違うのか。基礎研究から始めよう」。化粧品開発の常道である、有力な論文が推測しているメカニズムをベースに作業をすすめる方法をあえて選ばなかった。「泥臭く、自分たちの目と手で確認しなければ、大きなチャレンジはできない」と考えたからだ。社内の化粧品開発担当者からは「そのやり方で結果がでるのか」という反対意見が出て、激しくやり合うこともあったが、方針を曲げなかった。

1年半でチーム4人が比較したシワの切片は、スライドガラス1000枚分以上。その結果、世界でまだ誰も見つけたことのないシワの原因を解明、さらに5400種の候補物質からシワに効く有効成分を見出した。末延氏の口癖は「いい結果が出たときこそ、疑ってかかれ」。メンバーは夢の中でもスライドガラスと格闘し、実験器具の使い過ぎで腱鞘炎になるほどだった。

「あなたには人望がない」

困難を極めたのが、独自の有効成分を薬用化粧品として仕上げること。3年間、社内外の専門家をあたり、実験を繰り返したが解決法が見つからない。そのたびに「他の方法がある」とあきらめない末延氏に20人に増えたチームの一部から不満の声も出始めた。同僚から「あなたには人望がない」と言われたこともあった。ポーラの業績は低迷が続いており、商品に結びつかない研究にいつまで人と金をかけるのかという批判の声も上がった。末延氏は勝つ目算のある投資だということを数字で説明する必要性を感じ、研究と同時進行で会社の数字を学び、週末に簿記学校にまで通った。「反対意見を持つ人を動かすには、こちらが相手に分かりやすい言葉で話すこと」。15年の間に身に付いた交渉スタイルだ。

「怖がり」が決めた覚悟

末延氏は自分を「本当は怖がり」だと言う。にもかかわらず、なぜ周囲の懸念に揺らぐことなく、チームを引っ張り、周囲を説得し続けてこられたのか。1つ目には「分からないことを不安がっても仕方がない」という割り切りだ。納得するまで、考え尽くし、検証したら、リスクがあるからと逃げない。リーダーが覚悟を決めなければ、物事は動かないからだ。2つ目は目標を「成功」のみに置かないこと。開発のプロセスを通じて部下や会社にとって「資産」となるような仕事をすることを常に意識していた。「何を真の成功とし、失敗とするか。立ち戻るのは、人の評価よりも、自身が定めたゴール」という信念が、プロジェクトを成功に導いた。

(日経BP社「日経おとなのOFF」編集委員 安原ゆかり)

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