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世界マスターズV 朝原宣治さん46歳で復活できたワケ 元陸上五輪メダリストに聞く(上)

2018/10/29

まず、MRI(磁気共鳴画像装置)で筋肉の状態を調べてもらったのですが、臀部(でんぶ)やハムストリング(太ももの裏側の筋肉)、内転筋の筋肉が現役時代に比べて縮小し、予想以上にスカスカでした。これは走るトレーニングの前に、まずはケガをしない体づくりを優先しなければと、家で寝転がって足を上げて下腹部を鍛えるようなきつめの体幹トレーニングを重点的に行いました。さらに、スピードを上げるために重要な臀部やハムストリングの筋肉を、ウエートトレーニングで集中的に鍛え直しました。走る練習は週1回程度、大阪ガスのトラックで時々選手たちと一緒に走るようにしましたが、筋肉が減っているため、なかなかイメージ通りの走りができませんでした。

――具体的にどんな練習をされたのですか?

長めのウオーミングアップや「走の基本」[注1]などで体を温め、120m程度の「快調走」[注2]を何本か行い、最後にスパイクを履いてスピードを上げて短い距離を走ったりしました。でも、当然ですが週1回のトレーニングだと、体力がなかなかつきません。そのあたりが悩ましかったですね。

■ジャカルタの道路や空き地でトレーニング

――そんな中、8月5日の北海道マスターズ陸上競技選手権大会M45の部の男子100m走では、11秒30というタイムを出されました。

世界記録を狙うなら、11秒10ぐらいが目標かなと思っていましたが、向かい風でしたし、週1回しか練習していないという準備不足を考えれば、そこそこのタイムで走れたと思います。

試合後、自分の走りを動画でチェックしながら、さらにフォームを安定させるために筋力を鍛えることが課題だと考え、ウエートトレーニングと走る量を増やすことにしました。そして、8月15日にメンバーが大阪ガスのトラックに集まって行うバトン練習に備えたのです。でもその当日、ふくらはぎに違和感を覚えて練習を中断することに…。

それまでは、足に急激な負担がかからないように、自分のペースで慎重に練習を積んでいました。ですが、バトンパスの練習でメンバーが加速しながら向かってくると、本能的にトップスピードに上げなければと力んでダッシュしてしまい、ふくらはぎに違和感が生じてしまったんです。結局、1回もバトン練習ができず、私は後悔や不安、焦りなどを抱えたまま、アジア大会の陸上競技の解説の仕事でインドネシアのジャカルタに飛び立ちました。

「道路や空き地で練習するなんて、俺は武井壮かって(笑)」

当然ですが、ジャカルタで仕事をしている間も、世界マスターズの日程が刻々と近づいてきます。そこで足の状態を見ながら、空き時間に練習していました。アジア大会に出場する選手がウオーミングアップしているトラックで練習しようかと思いましたが、それはさすがに恥ずかしいので、炎天下、アスファルトの道路や空き地を走っていましたね。「道路や空き地を走るなんて、世界記録を出すためにどんな練習しているんだ。俺は武井壮か」と思いながら(笑)。武井くんが、トレーニングしている様子を毎日SNS(交流サイト)にアップするので、それを見るたびに結構プレッシャーになっていました(笑)。

――海外で仕事をしながらトレーニングするのは、疲れもたまりそうですが…。

海外のホテルでしたが部屋に浴槽があったので、毎日湯船に入って疲れを取ることができました。部屋ではストレッチや補強運動などを続けて、疲れを残さないようにしていました。

日本でトレーニングするときも、家からおにぎりなどを持っていき、トレーニング後にすぐ栄養補給をして体の回復に努めていました。改めて考えると、体に気を使った休養の取り方や食事の取り方を意識したのは、それこそ10年ぶりで新鮮でしたね。

46歳という年齢で、しかも満足する練習ができていないという、現役時代とは全く異なる中でのチャレンジでしたが、知識や経験を駆使して限られた時間でどう調整し、中年になった自分がどれだけのパフォーマンスを発揮できるかということを試せたのは、純粋に楽しかったです。準備期間が短かったのと、ケガだけが心配でしたが、バトンさえもらえれば世界記録を出せる自信もあったので、ワクワクしました。

結果的に、世界記録には届きませんでしたが、せっかくここまで走ることができたし、参加されている世界中の中年・高齢アスリートのパフォーマンスに刺激を受け、チームで世界記録へのリベンジを果たし、個人でも挑戦したい思いが生まれました。

(中に続く)

[注1]走るための正しいフォームや動きを体に覚えさせるための運動

[注2]7~8割の心地よいスピードで走ること

(文 高島三幸、インタビュー写真 水野浩志)

朝原宣治さん
1972年兵庫県生まれ。高校時代から陸上競技に本格的に取り組み、走り幅跳び選手としてインターハイ優勝。大学では国体100mで10秒19の日本記録樹立。同志社大学卒業後、大阪ガスに入社、ドイツへ陸上留学。2008年北京オリンピックの男子4×100mリレーで銅メダル獲得。引退後、2010年に陸上競技クラブ「NOBY T&F CLUB」を設立。2018年9月、スペイン・マラガで開催された世界マスターズ陸上競技選手権大会・M45部門・男子4×100mリレーで金メダルを獲得。

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