負けない心を息子に持ってほしい
作家、石田衣良さん
息子が鬱病で引きこもっています。大学1年で休学中です。周りにも心を病んでいる人がいるとよく聞きます。現代病でしょうか。それとも、みな心が弱くなってきているのでしょうか? 負けない心を持つにはどう励ませばいいのでしょうか。(石川県・女性・50代)
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夢を描いて入学した大学を最初の年で休学してしまう。息子さんのことが心配でたまらないのはもっともです。よその子はみな元気に大学にかよい、青春を謳歌しているのに、なぜ息子だけ。その気持ちは痛いほどわかります。
ですが、今のあなたの対応ではますます引きこもる彼を追いこむ結果になるでしょう。鬱病は現代の病でも、心が弱いからなる病気でもありません。そもそも心が強いとか弱いとか、誰がどう決めるんですか。ぼくには意味がわかりません。早く治れ、がんばれとむやみに励ますことも、多くの場合鬱病患者には逆効果です。
誰でもかかる心の風邪という人もいれば、死を招く心の悪性腫瘍だという人もいます。息子さんの場合、どちらになるかは今のところわかりません。家族ががんにかかれば、がんについて勉強しますよね。同じようにあなたも鬱病について学び、「心が弱いからなる病気」という迷信から早く卒業してください。
これから厳しいことをいいます。お母さんとしては早く治して復学してほしいでしょうが、最初に覚悟を固めておきましょう。大学に戻るまでさらに2年も3年もかかるかもしれない、ことによると鬱病は息子さんが一生つきあっていく病気になるかもしれない。大学を4年で卒業し、新卒採用のゴールデンチケットをつかい、大企業に就職する。そういう人生設計からひとまずおりる覚悟です。
息子さんをほかの大学生と比べてはいけません。就職しか生きる道はないと圧力をかけてもいけません。人生にはいろいろな生きかたがあるのです。大学をでてずっとフリーターをしていたぼくがいうのだから、間違いありません。
お母さんならわかりますよね。息子さんには誰とも比べられない「いいところ」がある。人に優しく、生真面目で、高い集中力をもっていませんか。病気によってできることは減ったかもしれませんが、息子さんのなかにある「いいところ」は変わらずに輝いているはずです。闇のなかに揺れるその明かりを忘れずに、息子さんの人生に寄り添ってあげてください。それができるのは家族のあなただけです。ちいさな声でいいます。がんばれ!
[NIKKEIプラス1 2018年10月20日付]
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