週末レシピ エリンギとお吸い物の素でマツタケ風ご飯
秋の味覚の代表格といえば、なんといっても「マツタケ」だろう。その豊かな香りと独特の食感はキノコの王様だ。今回は、高級でなかなか手が出ないマツタケのかわりに「エリンギ」を使って、「マツタケ風味」の炊き込みご飯を作ってみよう。
さっそく材料と作り方を紹介する。
<材料>
コメ 2合 / エリンギ 1パック / マツタケのお吸い物の素 2袋 / 酒 大さじ1杯
(1)コメは普段ご飯を炊くときの要領で洗っておく。少なくとも30分は水につけておく
(2)エリンギを上下半分にカットした後、縦に2ミリほどの厚さにスライスする
(3)炊飯器にコメをセットし、いつもより若干少なめに水分を入れる。酒大さじ1を加え、結果的に2合の線に水が来るようにする(酒+水でいつもご飯を炊く水の分量にする)
(4)炊飯器の釜にマツタケのお吸い物の素を入れ、軽くかき混ぜる。その上にスライスしたエリンギを乗せ、炊飯スイッチを入れる
(5)炊き上がったら、しゃもじで軽く混ぜ、さらに15分ほど蒸らしてできあがり
以上である。要は、いつも炊くご飯にエリンギとお吸い物の素をプラスしただけ。
エリンギは食感がマツタケに似ている。見た目は傘の形状こそ違うものの、軸の部分の太さがほぼ同じなので、スライスすればかなり似ている。香りが足りない分、マツタケのお吸い物の素で補おうというわけだ。
我が家のご近所のすし店やウナギ店は、配達をお願いすると季節にかかわらずこのマツタケのお吸い物の素をつけてくれる。だが、すしもウナギも日本酒とともにいただくため、お吸い物の素は使われないままたまっていくばかり。
同じようなご家庭も多いのではないだろうか。是非、この機会にこれを消費してしまおう。
ご飯の炊き方は人によっていろいろと「こだわりポイント」もあるだろう。普段、教科書通りにコメを浸水させた後にザルに上げているとか、土鍋でご飯を炊いているという人は、いつもやっている通りのご自身の炊き方で、材料だけを加えていただければよい。
また、スライスしたニンジンや油揚げ、シメジなどを加えて炊くと、見た目の「マツタケご飯」っぽさは失われるが、うま味は増す。茶わんによそった後に生のミツバなどをあしらってもいいだろう。
注意点としては、使うコメによって「水加減」を変えること。この季節は「新米」が出回っている。新米は古米に比べると中に含まれている水分量が多いので、いつもの感覚で水加減をするとベチャベチャした炊き上がりになってしまう。コメの袋に「新米」のシールが貼ってあったら水の量をいつもより1割程度少なくしよう。
ちなみに、ご飯を炊くときはコメ1合(180cc)に対して水200ccが基本。2合なら水400ccなので、その1割は40cc。大さじ1杯は30ccなので、同じような水加減にした後、大さじ2杯強の水を捨てて、酒大さじ1杯を加えればよい。
さて、先月の新聞によると、今年のマツタケの卸値は前年に比べると4~5割程度安いとのことである。主な産地である長野県と岩手県で夏の間に適度な雨と高温に恵まれ、生育が順調だったからという。
消費者にとってはうれしいニュース…… と言いたいところだが、それでもスーパーや青果店の店頭に並べば2~3本で1万5000円程度である。やはり庶民にとっては高根の花としか言いようがない。そもそも、一食材の相場が毎年新聞に載ってしまうこと自体、マツタケが特別な存在であることを物語っている。
なぜそれほどに高価なのか。一言で説明するならば、需要に対し収穫量が極端に少ないからである。林野庁の統計によると、日本のマツタケの生産量は1941年の1万2000トンをピークに年々減少、最近では100トン程度にまで推移している。
マツタケは主に、比較的日当たりのよいアカマツの林に生える。アカマツ含む木材を燃料としていた時代は日本の里山は人の手が加えられ、マツタケが生息する環境が整っていた。
しかし、現在は木質燃料が使われなくなり、里山の木は間引かれなくなった。日当たりや風通しは悪くなり、枝や落葉が堆積、土壌が栄養過多になってしまった。マツタケが繁殖しづらい環境になり、収穫量が激減してしまったという。加えて、人工栽培が難しいという事情もある。
マツタケを含むキノコ類は菌類の仲間で、菌糸という細い細胞が土の中や枯れ葉や木に広がり、そこに依存し栄養をもらって生きている。キノコはその依存する先により2つに分類され、落葉や枯れ木など死んだ生物に依存するのが「腐生菌」。生きている植物に依存するのが「菌根菌」である。
シイタケ、エリンギ、エノキ、マッシュルームなどスーパーでよく見かけるキノコは前者で、こちらは人工栽培が容易。マツタケは後者で、菌糸を培養するところまでは可能だが、食べられるまでに成長させることは難しいのだとか。
菌根菌は生きている植物に依存するので、マツタケを人工栽培するには、培養させた菌糸を松林の木に植えつける。ところが、マツタケ菌の成長は非常に遅く、成長が早い菌との競争に負けてしまうのだという。
だが、今年の10月に画期的なニュースが飛び込んできた。肥料・化学品メーカーの多木化学がマツタケに近いキノコ「バカマツタケ」の完全人工栽培に成功したというのだ。このニュースを受けて、10月10日に同社の株が前日比で21%も上げてストップ高となり、3営業日で株価は68%も上昇したと報じられていた。
バカマツタケとはあんまりな名前だが、あだ名ではなく、「トリコローマ・バカマツタケ」というレッキとした学名である。アカマツの林でなくナラなどの広葉樹林に生えること、本家のマツタケよりも早く8月ごろに出てきてしまうことから、間違った時期、間違った場所に出てきてしまった「バカなマツタケ」ということらしい。
香りはマツタケに劣らない、いや、むしろ香りが強くおいしいという。
マツタケ同様、「菌根菌」のキノコなので、本来は生きている植物にしか依存しない。ところがこのバカマツタケ、その菌を木くずの人工培地(つまりは死んだ生物)に植えつけたところ、どういうわけか間違って育ってしまったそうである。
コイツ、ほんまもんのアホや…… 出てくる場所や時期だけでなく、依存する相手も間違えるなんて……。
多木化学では3年後には量産を目指すとのこと。研究が進めば、本家本元マツタケの人工栽培も可能になるかも、との期待もある。そうなればマツタケの価格もまた変わってくるかもしれない。しかし、それまでは高値が続きそうなので、しばらくはエリンギとお吸い物の素を使った炊き込みご飯でマツタケ気分を味わおうと思う。
(ライター 柏木珠希)
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