発見! チャーハンにぴったりのコメ品種、大粒ダイヤ
土屋敦の男の料理道(1)
『男のパスタ道』『男のチャーハン道』シリーズを連載してきた私、土屋敦が、さまざまな料理を対象に、より細部にこだわって、料理をおいしくする方法や食材を、試行錯誤しつつ探っていく新連載。初回は「日本のチャーハン」をよりおいしくするコメの品種について考察する。
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先日、中華料理のシェフ・菰田欣也(こもだきんや)さん、慶応大名誉教授の山本英史さんと「三田評論」という雑誌で鼎談(ていだん)させていただいたのだが、そのとき、お二人から本場中国のチャーハンより日本のチャーハンのほうがおいしいのではないか、というお話があった。そして菰田さんは、「日本のおコメがおいしいから、日本のチャーハンはおいしい」といった趣旨のことをおっしゃっていた。
本来チャーハンは、残りご飯を温めておいしく食べる手法の一つであり、むしろ、さしておいしくないご飯をおいしく食べることができる料理、とも言える。実際、少し古くなった安いコメも、チャーハンにすれば、結構おいしく食べることができる。
だが、やはりいいコメを使うと味がぐっと良くなる。私自身、『男のチャーハン道』(日本経済新聞出版社)という本を書くに当たり、さまざまなコメの品種を食べ比べたのだが、そのとき、コメのそのものの特徴がチャーハンのおいしさを大きく左右することに驚いたのだ。もちろんコメの味や食感は品種だけでなく気候、土壌、育て方などによって左右されるので、同じ品種のコメが同じ食感や味になるわけではないことは留意されたい。
この食べ比べによって、おいしいチャーハンが作れるコメの特徴が分かってきた。そして、最近になってその特徴をズバリ具現化した新しいコメ品種と遭遇したのだ。その名も「大粒ダイヤ」という品種である。
では、コメの食べ比べから「大粒ダイヤ」との遭遇までを振り返ってみよう。まず、同著執筆中にチャーハンに合う特徴が、「朝日」「ハツシモ」「あさひの夢」というコメから共通点が見えてきた。この3品種は、同じ系統のコメであり、粘り気が少なく、パラパラになりやすい。そしてもう一つ、大きな特徴がある。何度もチャーハンを試作しているうちに、その特徴がチャーハンのおいしさに大きく貢献することに気がついたのである。
それは、「粒立ちの良さ」とでもいうべきものだ。コメの粒が大きく、炊くとぷりっとして弾けるような食感が生まれる。これをチャーハンにすると、かんでいて心地よく、非常においしく感じるのである。
また、「朝日」「ハツシモ」「あさひの夢」のほかにも、粒立ちの良さが印象的だったコメがある。
それは「にこまる」というコメだ。こちらは、九州など温暖な地方のブランド米で、2002年に奨励品種となった、まだ新しい品種である。ただし作付面積では常にトップ3に入っている「ヒノヒカリ」の後継品種なので、これから一気に入手しやすくなるかもしれない。
「朝日」などとは違い、仕上がりはパラリとはしておらず、もっちりとしている。そして味は甘く、日本人好みだ。飯粒も小さく細長い。ならば「粒立ち感」は弱いかと思いきや、小粒でも張りつめたような存在感があるので、きびきびとした、心地よい食感があるのだ。それに加え、おこわのような、むちむち感もある。
かむとご飯の一粒一粒がぷちっぷちっ、と弾けるような快感がある。パラパラでもしっとりでもない、いわばむっちりチャーハンとでもいおうか、新食感のチャーハンができるのである。
さて、ここまでが『男のチャーハン道』を書くときに調べ、実験し、試食して得た知見である。以降、私の中では、「チャーハンに最適なコメは『朝日』『ハツシモ』『あさひの夢』などの系統、亜流として『にこまる』のチャーハンもおいしい」と結論づけていたのだが、それらを超える、非常に粒感のある、とてもチャーハン向きのおいしいコメというのが、冒頭で紹介した「大粒ダイヤ」なのだ。
「大粒ダイヤ」は、もう名前からして粒立ちが悪いわけない、という感じである。「大粒ダイヤ」はその名の通り大粒だが、「朝日」などと同じ系統ではない。「コシヒカリ」から作られた「夢ごこち」と「ホシアオバ」の交配で生まれた品種であり、味は「コシヒカリ」に近く、甘みが強いのだ。「にこまる」のような甘さとむちむち感に加え、粒の大きさから生まれる際立った粒立ちの良さがある。
日本人が「コシヒカリ」の食味を好むことを考えれば、「大粒ダイヤ」のチャーハンは、まさに菰田シェフが指摘した「おいしい日本のチャーハン」のためのコメといえるかもしれない。
実際に「大粒ダイヤ」でチャーハンを作ってみたが、明らかにご飯の粒が非常に大きく、なんといっても粒立ち感がすごい。その一方で「朝日」などに比べ、パラパラ感は劣る。しかし、「男のチャーハン道(1)パラパラチャーハン作れないのはダメ人間? 男の挑戦」の連載で紹介した作り方なら、十分にパラパラ感は出せるので、ぷちぷちと弾ける食感とご飯のおいしさが堪能できるチャーハンを作ることができるのではないだろうか。
それでも、「大粒ダイヤ」を普通に炊いたご飯でチャーハンを作ってみて、「パラパラ感が足りない」と思った方のために、菰田シェフが教えてくれた、とっておきの方法をお教えしよう。
それは、コメに水を加えて炊くのではなく、もちゴメのように蒸し上げるのだ。そうすれば、粒立ちが素晴らしく、パラリとして、それでいて日本のコメらしい甘みのあるチャーハンが作れる。ご飯の味を楽しむため、味付けはシンプルなほうがいいだろう。
ちなみに「大粒ダイヤ」のもみ種は、2019年度の作付けからコメ卸大手の神明が契約農家に独占販売するという。主に業務用、外食用を考えているらしいので、中華料理店やコンビニでパラッパラのおいしいチャーハンが食べられるようになると、今から楽しみである。
ライター 1969年東京都生まれ。慶応大学経済学部卒業。出版社で週刊誌編集ののち寿退社。京都での主夫生活を経て、中米各国に滞在、ホンジュラスで災害支援NGOを立ち上げる。その後佐渡島で半農生活を送りつつ、情報サイト・オールアバウトの「男の料理」ガイドを務め、雑誌などで書評の執筆を開始。著書に『男のパスタ道』『男のチャーハン道』(いずれも日本経済新聞出版社)など
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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