「東大卒はアルゴリズムで勝つ」 eスポーツに新風プロゲーマーのあるじさんに聞く(下)

「イベントでファンと対戦する際も、強さを見せつけても仕方がないですし、このファンは何を求めて僕と対戦しにきたのかなということを考えて接しています。ファンが面白い『デッキ』(ゲームで使うカードの組み合わせ)で試合をしてみたいというなら、そういうデッキでやりますし、記念に一回ガチで戦ってみたいというなら、ガチで戦うという感じですね」

試合でプレーするあるじ選手(提供:RAGE (C)NAGOYA OJA (C)CyberZ, Inc. (C)AbemaTV, Inc. (C) Cygames, Inc. (C)avex entertainment Inc.)

――選手としてのこだわりはありますか。

「自分をキャラクタライズしていて、頭脳派でいくと決めています。ですから、メガネをかけて手をメガネにやるというポーズや、ワイシャツを着てネクタイを締めて、その上にユニホームを着るというスタイルなどを一貫させています。(『あるじ』のほかに)『ロジカルプロフェッサー』という、もう一つの通り名も持っています。理論的に状況を分析し、適切な戦略を選ぶという意味を込めました」

――どんなプレースタイルを目指していますか。

「事前準備が一番うまい選手になりたいと思っています。カードゲームは、相手が持ってくるものよりも強いものを持ってくれば有利な状態になるので。相手がどういうカードを準備してくるかということを研究し、履歴をチェックして準備します」

「ただ、それをファンがすぐに認知してくれるかというと、そうでもないことが実際にやってわかりました。だからプレー全般をレベルアップしないと、結果として事前準備が優れている選手として認められないと考えています。人と違うことをやろうと思ったら、人よりも2段階ぐらい上にいかないといけない。練習時間がいくらあっても足りない、という日々です」

――一日の生活の中で、どのぐらい練習をするのですか。

「シャドウバースに関しては、一日の中で10時間以上は、なんらかの形で関わっていると思います」

プロ選手を中心とする経済圏つくる

――eスポーツにはほかにもいろいろなゲームがあります。プロ選手として今後はどんなゲームをやりたいですか。

「一つのゲームを極めた人間であれば、他のゲームにおいてもプロレベルになるまでそんなに時間はかからないだろうと思っています。だから一つを極めておけば、ゲーム会社が仮にそのゲームの提供をやめても、他のゲームで選手を続けられるかなと思います」

「ものすごく稼ぐプロ選手を中心に経済圏ができる状態を目指す」と話す

「準備の仕方、勝つためのアルゴリズムの発見という基本を押さえることが重要です。プログラムで設定された加点や減点の法則性や、裏にあるルールを読み込んで対応できれば、例えば新しいゲームが出たとしても、みな経験値は低いところからのスタートになるので、そこで勝ち続けられると考えています」

――格闘ゲームやシューティングゲームはどうですか。

「格闘ゲームならいかにボタンを早く押せるか、シューティングゲームなら反射神経が求められるので、これらで勝つのは難しいと思っています。だから、自分はカードゲームや(思考能力を競う)マインドスポーツ系を極めていきたいです」

――プロ1年目のあるじさんの収入はどのくらいですか。

「シャドウバースのプロリーグは、参戦するプロ選手に月30万円の収入を保証してくれています。これにリーグの成績に応じた賞金、イベントやメディアへの出演料、グッズ売り上げなどが加算されます。僕の場合、そのほかにシャドウバースの分析記事の原稿料もあります」

――あるじ選手が考えるeスポーツのプロ選手としての成功とは、どのようなものですか。

「プロ選手がものすごく稼げるような状態になっていることではないでしょうか。プロ選手じゃなくてもゲーム関係で食べていける人が増え、プロを中心とした経済圏ができているような状態が、自分の目指す成功です」

「そうなれば、ゴルフやテニスのように、レッスンにお金を払う人が大勢出てくるでしょう。レッスンで稼げるプロを目指す選手が出てくるかもしれない。あるいはプロ選手が、試合を分析する専門家をサポートスタッフとして雇うようになるかもしれない」

棋士のように70歳でも活躍したい

――海外ではだんだんとその世界に近づいてきていると思いますが、日本ではどうなればその世界が実現するでしょうか。

「スターが必要でしょう。将棋でいえば、藤井聡太さんのような存在です。その意味で、東大関係者が業界で増えているのはいい傾向です。『東大生もやるeスポーツ』と話題になって、その中で勝ちまくっている人がいるみたいなことが起これば、さらに話題になると思います。今はその素地を固めないといけないフェーズだと思います」

「カードゲームは年齢で衰えがない競技です。棋士が70歳でも活躍できるように、この先長く選手を続けられればと考えています。だから、しばらくは業界の発展のためにも、突っ走っていきます」

(聞き手はスポーツマーケティングラボラトリー 石井宏司)

あるじ
1985年3月、山口県生まれ。地元の進学校から現役で東大文科三類(文学部行動文化学科)に入る。在学中は学部1位の成績をとったことも。2009年に卒業後、ビズリーチ、メルカリなどで勤務。18年に仕事を辞めて、ゲーマーとしてプロスポーツクラブの名古屋OJAに加入。カードゲーム「シャドウバース」を専門にプレーし、JCGの3rd Season Vol.15(17年8月)と同Vol.20(17年9月)で優勝した。ゲーム専門メディアでシャドウバースの戦略分析記事も執筆している。

[スポーツイノベイターズOnline 2018年10月12日付の記事を再構成]