オリパラ

勃興eスポーツ

「東大卒だからeスポーツ」 知力とブランドで貢献 プロゲーマーのあるじさんに聞く(上)

2018/10/29

――2年間留年をしているときは、どんなことを考えていたんですか。

「実はそのころ一番やっていたのはゲームではなくて、カラオケでした。採点カラオケに友達と一緒に行ったら、普通に全国で上位の点数が出てしまい、そこで初めて人との対戦にはまりました。全国ランカーとしてやっていたのです。それまでゲームはロールプレイングゲームを一人でやることが好きだったのですが、人と対戦してやるのは楽しいと考えるようになりました」

東大を卒業後は企業に勤めながらゲームを続けていた(写真はビズリーチ時代)

「ただ普通に生活をしながら、1位を獲得し続けていくことは難しいとも感じていました。カラオケの採点ロジックを見抜いて、高得点を取ることに一番親和性が高い仕事は何かと考えたところ、プログラミングに行き着きました」

――そこにプロゲーマーとしての原点があるわけですね。一人でやっていた時代と、対戦ゲームになった時の違いは何だとお考えですか。

「一人でやるゲームは、攻略し尽くしてしまったらそこで終わるのですが、対戦ゲームの場合は、相手のスキルが向上するとか、出方を変えてくることがあります。対象がレベルアップしていくことで、常に攻略し続けるという楽しさがある一方、勝負に対する焦燥感なども味わうことになりました」

――その後はどんなキャリアを歩んだのですか。

「小さなIT(情報技術)企業に入り、その後、(転職サイトなど人材サービスの)ビズリーチにエンジニアとして転職し、データベースに関する仕事をしていました。大学で統計を勉強していたので、データサイエンスを少しかじって、その後メルカリに転職しました」

■仕事していると自己研さんできず

――普通に考えると、データサイエンティストなどとして企業で十分に活躍できそうですが、何か転機があったのですか。

「仕事をしながら、ゲームは続けていました。いまプレーしている(オンラインカードゲームの)『シャドウバース』も、(16年6月の)リリースの少し後に始めました。ただ仕事をしていると、自己研さんの時間が足りない。自分の時間をこれだけゲームに使っているなら、もうその世界に行ってしまってもいいのではないか、と思い直しました」

名古屋OJAのチームメートと。右端があるじ選手(提供:RAGE (C)NAGOYA OJA (C)CyberZ, Inc. (C)AbemaTV, Inc. (C) Cygames, Inc. (C)avex entertainment Inc.)

「ゲームを作る側のゲーム会社に就職するということも一時期は考えたのですが、やはり自分はプレーヤーでありたいという思いがあったことや、あまりゲーム会社について詳しいわけでもなかったため、そちらの選択肢は取りませんでした」

――プレーヤーとして、ゲームで生きていける勝算はあったのですか。

「実はメルカリにいる時から、ダブルワークでゲームメディアの攻略ライターをやっていました。これだけでもギリギリ生活できる、という計算はありました。今後ゲーム市場は拡大傾向にあると考えていたので、仕事が減っていくことはそんなにないだろうと。そういう計算はあった上で、eスポーツのプロ選手になったという感じです」

――実際にどのようにプロになったのですか。

「ちょうど自分がプロになろうと会社を辞めた2018年3月に、『シャドウバース』のプロリーグが始まりました。その一つのチームに『名古屋OJAベビースター』がありました。募集要項に『勝利の再現性』という言葉があり、単純に今強い人を集めるのではなく、強い基盤を固めていくという思想を掲げていました。それが自分の考える方向性と合致していると感じました」

「スキル的にはシャドウバースというゲームで自分が一番ではないと思いましたが、この募集要項であれば自分が一番適任であろうと考えて応募しました」

■東大ブランド、企業投資も得やすく

――実際に名古屋OJAというプロチームの選手になった時、どんなことを考えたのですか。

「この世界を絶対に拡大させたい、と思いました。第一に、プロリーグのバリューがまず高くならないといけない。見ている人がこれは面白い、と思うようにはしたい。この部分さえなんとかなれば、お金を出してくれる企業は自然と見つかっていくだろうと思っています」

「eスポーツは一種のエンターテインメントで、プロ野球やプロサッカーを多くの人が楽しんでいるのと同様のことが、海外のeスポーツ市場ではすでに起きています。良い選手さえ育っていけば、成長性はあると思います」

――自らが東大出身であることを意識しますか。

「eスポーツは知力が必要なスポーツで、やはりそこに東大生がいる、ということが今後の拡大には必要な要素と思っています。自分がその最初のプレーヤーになれれば業界に貢献できると考えてプロになりましたし、最高のプレーヤーになれればベストシナリオです」

「私が所属する名古屋OJAの片桐正大社長はスポンサーを募る営業をしていますが、東大卒のプレーヤーがいる、というのが社会的信用にも好影響があるはずですし、企業からの投資にも何らかのメリットがあると思います」

(聞き手はスポーツマーケティングラボラトリー 石井宏司)

あるじ
1985年3月、山口県生まれ。地元の進学校から現役で東大文科三類(文学部行動文化学科)に入る。在学中は学部1位の成績をとったことも。2009年に卒業後、ビズリーチ、メルカリなどで勤務。18年に仕事を辞めて、ゲーマーとしてプロスポーツクラブの名古屋OJAに加入。カードゲーム「シャドウバース」を専門にプレーし、JCGの3rd Season Vol.15(17年8月)と同Vol.20(17年9月)で優勝した。ゲーム専門メディアでシャドウバースの戦略分析記事も執筆している。

[スポーツイノベイターズOnline 2018年10月12日付の記事を再構成]

オリパラ 新着記事

ALL CHANNEL