波瑠×西島秀俊 仕事の魅力「わからないから面白い」
恋する映画(6)映画『オズランド』W主演インタビュー
仕事にも恋愛にも全力で向き合っていると、あらゆる悩みを抱え込んでしまいがちだが、そんなときにはハッピーなお仕事エンターテインメント『オズランド 笑顔の魔法おしえます。』がオススメ。働く女性たちの背中を押してくれる映画として注目が集まっている。
本作では、東京からいきなり地方の遊園地に配属されてやる気ゼロの主人公・波平久瑠美が少しずつ働く楽しさに気づいていく過程が描かれているが、その様子を見事に表現しているのは、若手女優の筆頭である波瑠さん。
さらに、「魔法使い」と呼ばれる風変わりなカリスマ上司・小塚慶彦を話題作への出演が続く人気俳優の西島秀俊さんが好演している。そこで、多忙を極めるおふたりに、作品を通じて感じた仕事への思いや職場でのコミュニケーション方法などについて語ってもらいました。
理想との違いに悩むことがなかったのはラッキーだった
――劇中では社会人なら「あるある」と思うようなシーンもいくつかありますが、おふたりは俳優のお仕事を始めたときに理想と現実に悩んだことはありませんでしたか?
波瑠さん(以下、波瑠):私は14歳でこの仕事を始めたので、「こんなはずじゃなかった」という疑問すら抱くこともなかったですね(笑)。でも、逆にそれはラッキーなことだったなといまは思っています。華やかな表の裏で地味な作業を積み重ねているという部分においては、遊園地の仕事と私たちの仕事はすごく似ているので、そういう意味では私も裏方のひとりだと今回感じました。
西島秀俊さん(以下、西島):僕も何かに幻滅したということは全然なかったですね。初めて映画に出たとき、小さな役だったにもかかわらず、衣装さんが「西ちゃん、一緒に衣装探しに行こう!」と誘ってくれて、ふたりで下北沢とかを回りながら、服や髪形について話し合いました。そうやって役を作っていく過程を経験させていただいたときにはすごく感動しましたし、作業の楽しさも教えてもらえたことは、いま振り返ると若いころの印象的な出来事ですね。
影響を与えた先輩からの言葉とは?
――作品を受ける際に決め手にしていることや年齢を重ねることで仕事に対する向き合い方に変化があれば教えてください。
波瑠:私はあまり作品選びには関わっていないので、基本的にマネジャーさんにお任せしています。「自分でも意見を言った方がいいよ」と言われることもあるんですが、私の場合は、自分の好き嫌いが入ることで可能性が逆に狭くなってしまうことも。なので、間口を広げておくという意味でも、あえてそうしてもらっています。
西島:僕はデビュー当時『はぐれ刑事純情派』で、藤田まことさんとご一緒させていただきましたが、撮影の最後に藤田さんが「本業をゆっくりと」と書いた色紙をくださいました。僕のなかにその言葉がすごく残っているので、どこかでそれを意識しながらずっとやっているところがあると思います。変化したという意味では、以前はとにかく現場が好きで楽しいだけでやっていましたが、いまは観客のみなさんに楽しんでいただきたいという思いが強くなりました。せっかく時間を割いて見ていただくのであれば、次の日から世の中や周りの見え方が少し変わるような体験をしてもらいたいなと思っています。
現場の人たちを笑顔にするためにがんばりたい
――本作で描かれているように、どの仕事にも大変さとやりがいがあると思いますが、俳優という仕事で一番やりがいを感じる瞬間はどんなときですか?
波瑠:最初に私も裏方だと言いましたが、その私たちのために土台を用意してくれるさらに裏方の人たちがいるからこそできているのであって、作品に関われば関わるほど、整った環境をつくってくださる方たちの偉大さというものを年々強く感じるようになりました。だからこそ、「この人たちを笑顔にするためにがんばりたい!」という気持ちも生まれるようになりましたし、自分ひとりではないというのも気持ちを支えてくれるものとしてはすごく大きいものだと思っています。
――撮影で裏方の大変さを知ったからこそ、それが自分のモチベーションにもつながっているということですか?
波瑠:そうですね。やっぱり人に楽しんでもらうために積み上げていくというのは、すばらしい経験だと思うので、意識して大事にしたいところです。
何がおもしろいかわからないから俳優はやめられない
――西島さんにとって俳優という仕事の魅力は何ですか?
西島:俳優の仕事は「こんなにおもしろいものはないな」と。本当に最高の仕事だと僕は思っています。だからこそ、「抜けられなくなるから、やめるんだったら早く見切りをつけろ」と若いときに言われたことがありましたが、実際そうだなと思いながらいまもずっと続けている感じですね。
――本作の現場でいうと、どのあたりにおもしろさを感じましたか?
西島:今回は実際に開園している遊園地のなかで撮影したので、本当にたくさんのエキストラの方が来てくださいました。そういったこともあり、撮影後に飲みに行ったお店で映画に参加された方に突然話しかけられたことも(笑)。そんな風に地元の人も一緒になって作品を作り上げていくところが楽しかったですし、やればやるほどおもしろくなる感覚は、昔から変わらないですね。
元気の源は睡眠と甘いもの
――人との出会いによって誰でもポジティブになれるというのを作品からも感じましたが、おふたりを元気にしてくれるものがあれば教えてください。
波瑠:私は寝ると体力と気持ちが戻ってくるので、だいたい何でも平気になります(笑)。なので、眠れていない日が続くとわかりやすく元気がなくなるので、それがバロメーターですね。嫌なことがあっても寝ると忘れられますし、私にとっては睡眠がチャージになっていると思います。
西島:僕も甘いものを食べるとなんとかなるんじゃないかなっていう気持ちになるので、同じような感じですね(笑)。でも、僕はここまで順調にきたわけではなくて、つらい時期もたくさんあったので、いまさら何がきても「あのときがあったから……」という気持ちが支えてくれている部分もあると思います。
一生懸命やればちゃんと見てくれる人はいる
――ちなみに、もし久瑠美のように予想外の場所にいきなり配属された場合、おふたりだったらどうしますか?
西島:僕の身近な知り合いがまったく希望していない部署に飛ばされたことがあって、実際にすごく悩んでいたのをたまたま見ていたことがありました。でも、そこで一生懸命やったら、成績が良くなりすぎて、その部署が手放したくないとまでなってしまったんですよ。「このあとどうなるんだろう?」と思って見守っていたんですけど、その友人は仕事をきちんとこなしながらも、自分の希望を伝え続けていたので、それを見てくれていた人によって希望の部署にポンと引っ張られました。そのときに、「腐らずに一生懸命やっていれば、ちゃんと見てくれる人はいるんだな」と実感しましたね。
波瑠:私は自分がすごいことをできるとは思っていないので、何をやれと言われても、「私にはできないんじゃないかな」という不安な気持ちになってしまう方なんです。だから、久瑠美みたいに「私はもっとできるのに!」という思考が持てるのは、すごく強いなと思うんです。ただ、私も自分では想像していなかったような役が来たりすると、びっくりはしますけど、これを見てみたいと思ってくれた人がいるんだと考えるとがんばれますし、その状況をおもしろがることができるタイプ。実際に挑戦してよかったことの方が多いので、飛び込むことは大事だなと思っています。
それぞれが考えるコミュニケーション方法とは?
――本作では上司と部下の関係性についても考えさせられますが、おふたりが現場でのコミュニケーションで心がけていることを教えてください。
波瑠:まず、わからないことは聞くようにしています。それは自分から発信することでもあるので、そうすることで監督にも「言われてやるだけではなくて、ちゃんと考えてきているんだな」と思ってもらえることがあるからです。なので、そんなふうに自分の気持ちを相手にぶつけてみるというのも必要なことだと思います。
西島:今回、劇中でも小塚が波平にあえて失敗をさせていますが、僕自身にもこれまでにそういうことがありました。先輩の役者さんや監督に、「とにかくやってみろ」と言っていただいて、たくさん失敗してきましたが、それらは全部自分の糧になっているものばかり。だから、いろんな人に失敗という経験も積ませてもらったんだなと改めて思いますね。それもあって、僕も若い俳優さんと同じ現場だと「遠慮せずに思いっきりやれ!」と言うようにしていますし、若い人たちが挑戦できる現場にしたいというのが個人的な願いでもあります。
監督:波多野貴文
出演:波瑠、西島秀俊、岡山天音、深水元基、戸田昌宏、朝倉えりか、久保酎吉、コング桑田、中村倫也、濱田マリ、橋本 愛、柄本 明ほか
配給:HIGH BROW CINEMA ファントム・フィルム
10月26日(金)より、 TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
(C)小森陽一/集英社 (C)2018 映画「オズランド」製作委員会
【ストーリー】
波平久瑠美は、彼氏と同じ超一流ホテルチェーンに就職。夢と希望にあふれた生活を思い描いていたが、言い渡されたのは、なんと系列会社が運営する地方の遊園地グリーンランドへの配属辞令だった。最初はふてくされていた久瑠美だったが、カリスマ上司の小塚慶彦や個性的な従業員たちとふれあううちに、働くことの楽しさとやりがいに気づきはじめることに。小塚に対して、いつの間にか憧れか恋かわからない感情を抱いていた久瑠美だったが、ある日小塚の「秘密」を知ってしまうのだった……。
(ライター 志村昌美、写真 厚地健太郎、メーク 犬木愛<波瑠さん> 亀田雅=The VOICE<西島秀俊さん> 、スタイリスト 福田麻琴<波瑠さん> TAKAFUMI KAWASAKI=MILD<西島秀俊さん>)
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