雪の中で冬眠するコウモリ発見 実は樹洞より暖かく
雪でつくったねぐらで冬眠する哺乳類はホッキョクグマだけだと考えられていた。しかし、日本の科学者らは10年以上の研究を経て、コテングコウモリ(Murina ussuriensis)にも同様の習性があることを確認した。雪で冬眠する様子を、映像で紹介しよう。
この研究は2018年8月13日付けの学術誌「Scientific Reports」に論文として発表された。執筆者は、森林総合研究所の平川浩文氏と北海道立総合研究機構林業試験場の長坂有氏だ。
それにしても、小さなコウモリがどのように雪の中で生き延びるのだろう?
秋から冬にかけて気温が下がると、コテングコウモリは枯れ葉の中や樹洞(じゅどう)から雪の中にねぐらを移すと考えられている。雪に小さな穴を掘って入れば、体の上に雪が積もっていく。体の動きと体温によって周囲の雪が解け、小さな空洞ができる。コテングコウモリはその中で体を丸め、春を待つのだ。
信じられないかもしれないが、樹洞より積雪の中の方が暖かく、環境が安定していると平川氏は説明する。木は風にさらされるし、雪の方が断熱効果も高いためだ。
それでも、雪でできた「かまくら」の中は危険なほど低温になる。そこで、コテングコウモリはほとんど仮死状態と言えるぐらいまで呼吸のスピードと心拍数を下げ、体温調節を放棄して周囲の温度に身を任せてしまう。
この状態であれば、最小限のエネルギーで生き続けられると、平川氏は説明する。「雪の中でも生き延びることができるのは、この能力のおかげだと思います」
南イリノイ大学の生態生理学者ジャスティン・ボイルズ氏は修士課程でアカコウモリを研究したが、アカコウモリが落ち葉の下で冬眠する際に、雪に覆われてしまう場合があることがわかっている。
しかし、両者には2つの明確な違いがある。まず、コテングコウモリは自ら雪を探し求めているように見える。次に、アカコウモリが雪の下にいるのはせいぜい1~2週間だが、平川氏らが観察したコテングコウモリははるかに長い期間、雪の下にいることだ。
平川氏らの論文には、あるコウモリが2017年12月上旬から2018年4月中旬まで、4カ月以上も積雪の中で冬眠していた証拠が示されている。
もちろん過酷な環境での冬眠は時に代償を伴う。平川氏らは冬眠中に命を落としたコウモリを1匹発見している。それでも、36匹が生き延びたことを考えると、「失敗率は極めて低いはずです」と平川氏は述べる。
もし冬眠中に命を落とすコウモリが多ければ、自然選択によって、この行動はすでに淘汰されていただろう。
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2018年9月2日付記事を再構成]
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