裸一貫、トヨタで経営修行 日野自社長が説く危機意識
日野自動車の下義生社長(上)
日野自動車の下義生社長
トラックやバスなどの商用車で国内首位の日野自動車。2017年、生え抜きで16年ぶりに社長に就いたのが下義生氏(しも・よしお、59)だ。トヨタ自動車グループの中核企業ながら、就任早々にライバル社の独フォルクスワーゲン(VW)と提携。大胆な戦略を決断し、実行するリーダーシップとは。
57歳にして一から学ぶ経験、五感が磨かれる
――16年4月から1年間、日野自の出身者として初めてトヨタの常務役員を務めました。社長になるための教育期間だったのでしょうか。
「いいえ、辞令をもらったときにはそういう前提とは聞いていませんでした。しかも戻ってくるという約束も、何年間という決まりもなかった。それまで日野の仕事しかしてこなかったですし、トヨタで担当したコーポレート(経営管理)分野もやったことがなく、二重に初めての経験でした。57歳にして裸一貫で再就職したようなものです」
「グループ経営戦略や他社との提携・協力といった業務を担当しました。当時はトヨタが社内カンパニー制に移行し、大がかりな組織改革を進めている真っ最中。カンパニー制をいかに円滑に運営していくか、各カンパニープレジデントとやり取りしながら、トヨタ流の仕事のやり方を根本的に変えていくという刺激的な仕事でした」
――どんな学びがありましたか。
「とても密度の濃い1年で、もう一度、五感が磨かれたような感覚です。トヨタは純利益が2兆円を超える巨大企業でありながら、トップの危機意識がすごい。世界で数十万人のグループ社員を同じ方向に向かわせるため、豊田章男社長が『100年に一度の大変革』の時代であると、これでもかというほど社内外で発信し続けています。社会のスピードを上回って会社が変わっていかなければならないと強く感じました」
「17年3月に日野の社長に就く内示を受け、変革を促すための全社員向けのメッセージをつくろうと思い立ちました。3カ月間考え、6月の株主総会の翌日から発信を始めました。トップからのメッセージが必要だと思ったのはトヨタでの経験があったからです。もし、ずっと日野にいたまま社長になっていたら、思い付かなかったでしょう」