週末レシピ ケチャップこってり昭和ナポリタンに挑戦
今も昔も、喫茶店で定番の「スパゲティナポリタン」。洋風な麺は細かろうが太かろうが、すべてスパゲティと呼んでいた時代。「パスタ」や「アルデンテ」なんて言葉を日本人が知らななかった第2次大戦後あたりから、日本では食べ親しまれている。
ナポリタンは、家庭でのお手軽メニューとして、そして小学校の給食としても登場する。数年前、同級生のシェフが監修したテレビドラマでは、元フレンチのコックが、給食のオバちゃんになって奮闘するという内容で、ナポリタンがキーとなっていた。子供から大人まで、不動の人気のメニューなのだ。
ケチャップ味のナポリタンは、イタリア・ナポリには存在しない。日本では、横浜のホテルが発祥との説がある。在日の米兵が食べていた赤いスパゲティにヒントを得て、トマトソースを使用したナポリタンを考案したという。しかし、横浜のホテルとは別の、ケチャップでいためたスパゲティこそが、喫茶店風だ。今回は、そんな懐かしいナポリタンを作ってみよう。
<喫茶店風ナポリタン:材料(大盛り2人前)>
スパゲティ 180グラム / マヨネーズ 大さじ2 / タマネギ(中) 1個 / ピーマン 2個 / マッシュルーム(水煮)4個 / ニンニク 2片 / ソーセージ 4本 / ベーコン 4枚 / トマトケチャップ 大さじ5 / トマトペースト 大さじ1 / しょうゆ 大さじ1 / 中濃ソース 大さじ1 / サラダ油 大さじ2 / バター 大さじ1 / 粉チーズ 適量 / 塩・コショウ 各適量
作る前にポイントの確認として、以下の3点を挙げる。
・ケチャップはしっかりと焼きいためてから、具材と合わせておく
・隠し味に、しょうゆとバターを加え、コクと香りをアップさせる
<作り方>
(1)多めの塩を入れたたっぷりの熱湯で、スパゲティを表示時間より1分長くゆで、水気を切り、マヨネーズであえておく。
イタリアンなら、ソースができ上がるタイミングに合わせてパスタをゆでる。和製スパゲティにアルデンテは不要なため、最初に麺をゆでておく。
知り合いの喫茶店では、ゆでた麺を1人前ずつ小分けにして冷蔵庫で一晩置いている。アルデンテも何もあったものではないが、これこそモチっとした歯ごたえを出すコツなのだ。
家庭でわざわざ麺を前の晩からゆで、寝かすような作業は面倒。そこで、表示時間より長めにゆでマヨネーズであえることにより、似たような食感を出している。
(2)フライパンに大さじ1のサラダ油とつぶしたニンニクを入れ、食べやすい大きさに切ったソーセージとベーコンをいためる。薄切りにしたタマネギ、ピーマン、マッシュルームを加え、さらにいためる。
前出の喫茶店では、マーガリンを使っていた。ここではサラダ油を用い、最後にバターを加えてみる。
具材は分量以上にいためて、1人前ずつ冷凍しておけば、いざナポリタンが食べたいと思った時に便利。
(3)いったん、具をフライパンの端に寄せておく。空いたスペースに、大さじ1のサラダ油、ケチャップとトマトペーストを入れ、焦がさないように中火でいためる。しょうゆと小さじ1の粉チーズを加え、具材とソースを混ぜ合わせる。
ケチャップをいためる途中、焦がしてしまっては元も子もない。そこでトマトがギュッと濃縮された、トマトペーストに助けを求めよう。これにより、いため時間は短縮され、30秒ほどで済む。
(4)(1)を(3)に入れて麺にソースを絡めながらいためる。バターを加え、塩・コショウで味を調えてでき上がり。
私にとっての外食先での思い出のナポリタンは、東京・神保町にある喫茶店のものだ。古書店街として知られているこの街は、古き良き昔ながらの喫茶店が今でも多く残っている。驚くことに、赤電話まで現役で頑張っている店もある。
そんな店のナポリタンを注文すると、まず緑色の筒状の容器に入った粉チーズと、小瓶に入ったホットソース、赤いふたの食卓塩がテーブルにセットされた。しばらくすると、白地に青い模様が描かれた皿にドドーンと山高に盛られ、主役様のご登場だ。視覚に訴えかけるその風貌に圧倒され、さらにケチャップを油でいためた際に発する、酸味と香ばしさが混じった独特の匂いが嗅覚をくすぐる。食べる前からノックアウト寸前。
まず何もかけず、イタリアンのパスタではあり得ないほどの、熱々の麺に食らいつくのが好きだ。ほどよい温度になったところで、たっぷりの粉チーズとホットソースを数滴ふりかけ、味の変化を試みる。
もう一つ印象に残っているのは、日本でイタリアンの巨匠と呼ばれるシェフが教える、子供料理教室でのもの。私が子供の頃に参加したのではなく、調理の仕事の勉強も兼ねて参加した。子供教室だからといって、決して子供向けの甘ったるいケチャップ味ではなく、大人でも満足するしっかりとした味付けだった。
子供が作ったものを試食した保護者からは、「我が家では、いつもぼやけた味だった。調味料も少なかったし、いため加減も足りていないと分かりました」との声が寄せられていた。食育の一環として開催された教室で、大人も参考になったようだ。
この料理において、いためる作業はかなり重要となる。これまでチャチャっと作っていた家庭のナポリタンが、そこに注意をすると、同じ材料でも喫茶店のような味わいに激変するのだ。
そして、喫茶店を気取るなら、ドリンクはミルクセーキをお供にしたい。材料もシンプルで、作り方も混ぜるだけといたって簡単。
<ミルクセーキ:材料(2~3杯分)>
牛乳 2カップ / 卵 2個 / アイスクリーム (バニラ味かミルク味)ミニカップ1個 (ホットドリンクにする場合は、練乳 大さじ2)
<作り方>
(1)すべての材料をミキサーにかけ、グラスに注いででき上がり。
ミキサーがなければ、泡立て器で混ぜよう。泡立て器もないよという方は、フォークでしっかりと混ぜ合わせればよい。
以前、フレンチトーストの回で紹介したポイントを覚えているだろうか。白身のダマが残らないようにするには、卵黄と卵白を丁寧に溶きほぐすべし(「週末レシピ フレンチトースト必ず成功、プロの裏技」参照)。そこに残りの材料を加え、空のペットボトルなどに移して、バーテンダーよろしく、シャカシャカと泡立てるように振り混ぜる。
東京出身のおじさまに話を聞くと、「まさに、我が青春の味だよ!当時は、ナポリタンとかカツサンドってのは、おしゃれな食べ物でさ。それとミルクセーキがハイカラだったんだよ」「学生時代、喫茶店でナポリタンとミルクセーキを注文するのがイキでさあ」と、目を細めながら語ってくれた。
大阪出身のおっちゃんいわく、「昔、なじみの喫茶店のナポリタンが、ごっつううまかってん。セットでコーンスープが付いてくるねん。ナポリタンにはミルクセーキやポタージュみたいに、クリーミーなんが合うんやろうな」「せやけど浪速っ子は、ナポリタンでもミックジュースを注文するんが多いちゃうかな。アルバイトの時給が360円の時代に、500円以上もするミックスジュース、よう飲みに通ったわ」と、これまた熱弁してくれた。
最近は、ミルクセーキを提供する店が少なくなっているが、神保町の山盛りナポリタンの店では、今でもメニューに載っている。平成もあと数カ月だが、いつの時代になっても受け継がれてほしい。喫茶店でしか出合えないと思っていた、懐かしの味。自宅で懐メシにトライし、昭和レトロな食卓を楽しんではいかがだろう。
(世界料理探究家 T.O.ジャスミン)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。