日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/10/20

「何かが、これらの天体の軌道を同じようにそろえて、安定させていると思われます。私たちは、そこに巨大な第9惑星が存在するのではと考えています」とシェパード氏は語る。「地球をはるかに上回る海王星サイズの惑星かもしれません」

シェパード氏らはこの惑星を探しており、2015 TG387が探索の範囲を狭めてくれることを期待する。今のところ、第9惑星は2015 TG387の反対側にいて、小天体の軌道に影響を与えていると、シェパード氏は考えている。

太陽系の惑星と比較した2015 TG387の太陽からの距離(ILLUSTRATION BY CARNEGIE INSTITUTION FOR SCIENCE, DTM, ROBERTO MOLAR CANDANOSA/SCOTT SHEPPARD)

だが、これまでに観測されたこうした天体はごく一部にすぎず、第9惑星の存在を否定する天体が発見される可能性もある。

英クイーンズ大学ベルファスト校の天文学者ミシェル・バニスター氏は、巨大第9惑星の存在に懐疑的で、もう少し調べてみないとわからないという。

「そのためには、できるだけ多くの天体の軌道の種類や形を知ることです。そこに、第9惑星を加えて詳細にシミュレーションしたものを見てみたいです」

謎に満ちた太陽系外縁部の天体たち

それでも、バニスター氏は2015 TG387の発見を歓迎している。その周囲には、普段は見ることのできない無数の天体が存在しているかもしれないからだ。

「ひとつひとつの発見は、全て氷山の一角なのです。その背後にはおびただしい数の天体が隠れており、私たちが観測できるのは、たまたま太陽に近づいているとか、ほかの天体よりも大きいために明るく見える物体だけです」

こうした天体の集まりが、太陽系の全貌や歴史を理解する助けになると、バニスター氏は期待する。これまで発見できたのは、太陽まで50天文単位の範囲に近づく軌道を持つものや、80天文単位の距離でも比較的反射率の高いセドナ、そして太陽系の中心近くまで飛び込んでくる彗星など、ごく一部に限られている。

彗星は、太陽から2000~20万天文単位の距離にあって太陽系を取り巻いているオールトの雲の外縁部から飛来すると考えられている。2015 TG387は、彗星に似てほとんどが氷でできているようだが、軌道は彗星とは全く異なる。

バニスター氏は、太陽系外縁天体にまつわる謎のひとつは、どうやってできたのかだと指摘する。海王星より内側には、それだけの天体ができるだけの材料がそもそも存在しない。

もし今より内側でできたのだとしたら、どうやってそんな遠くまで押しやられてしまったのかも謎だ。わずかな重力が長い時間をかけて軌道を少しずつずらしていったのか、自らの重力によってできた微惑星なのか、はたまた恒星やあるいは恒星を持たない流れ者の惑星がそばを通ったのかなど諸説ある。

「これらの天体は何なのか、はっきりした説明がないのでまだまだ興味は尽きません」と、バニスター氏は言う。「太陽系誕生の頃の微惑星が『化石化』し、まだ解明されていないメカニズムによってそこに置かれたのかもしれません」

(文 Nadia Drake、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年10月5日付]