資産か廃虚か 日本のマンションの未来予想図田原総一朗×長嶋修(不動産コンサルタント) 対談

2018/10/19

マネートレンド

日本のマンションはどんな問題を抱えているのか、これからどうなっていくのか、どうあるべきか。ジャーナリストの田原総一朗さんが、9月に発売された「100年マンション 資産になる住まいの育てかた」の著者で不動産コンサルタントの長嶋修さんに切り込みました。

なぜ修繕金は不足するのか

田原 僕、マンションのこと、知らないから、長嶋さんにいろいろ聞きたい。

長嶋 東京のJR板橋駅から徒歩2分の所に、20平米の投資用のワンルームマンションがあります。価格は970万円。このマンションの修繕積立金は月に1500円ですが、全く足りません。修繕積立金は建物を修繕していくために所有者たちが毎月積み立てるお金です。20平米のマンションなら月4000円はためないと2回目、3回目の修繕に対応できなくなります。

田原 どうして修繕積立金を1500円しか取らないの?

長嶋 マンションの購入者は毎月のローンの返済以外に管理費と修繕積立金を支払わなければなりませんが、マンションを売る側は、その部分を限りなく小さくしておきたいと考えるからです。

田原 高くしたら売れない。そのために買い手をだますわけだ。じゃあ買う側はどうすればいいのか。

長嶋 問題意識をきちんと持つしかありません。修繕積立金を低くするのはデベロッパー側の論理です。

田原 でも、買う側は1500円という金額が安いか高いかわからない。

長嶋 一般的には1平米当たり毎月200円ほど必要です。例えば100平米のマンションだったら、1年目から毎月2万円ためていれば足りるでしょう。

日本経済にとって大きな問題

田原総一朗 ジャーナリスト。1934年、滋賀県生まれ。60年早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系列『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く

長嶋 マンションの動向は日本経済にとっても大きな影響があります。自分のマンションの価値が下がっても、「ずっと住んでいくからいい」と思うかもしれませんが、修繕や管理がおぼつかなくなると、マンション1棟全部がスラム化していきます。とくに郊外の不便なところにあるマンションは深刻です。

田原 なぜ都心から遠いところにばかりに住宅を造ってきたのですか?

長嶋 団地などが造られるようになったのは1970年代からです。当時は住宅不足が深刻でした。住宅建設法という法律を作って5年ごとに何戸造るという計画を進めてきました。地価も高かったので、普通の勤め人は郊外の家しか買うことができませんでした。

田原 今、多摩ニュータウンでは若い世代がどんどん出ていって高齢者ばかり住んでいる。

長嶋 人口減少と少子高齢化のせいです。多摩ニュータウンも全部がだめなわけではありません。駅前や駅近は建て替えしたりして新しい人も入ってきています。でも、ちょっとバスで行くようなところは、1棟50戸の中に5戸とか10戸しか人が住んでいない建物がたくさんある。これが全国に広がりそうです。

田原 じゃあ、どうすればいい?

長嶋 まず、住宅の総量をコントロールすること。バブル崩壊後、景気対策として新築住宅をたくさん買ってもらう政策を20年ほどやってきました。その結果、全国に空き家が増えてしまった。

田原 1991年にバブルが崩壊した。バブルは必ず起きて崩壊する。バブルが崩壊したら、地価はどんと下がる。みな分かっているはずでしょう。何で造り続けてきたのですか。

長嶋 無計画なんです。誰も全体をコントロールしていません。

田原 「誰も」というのはどういうこと? 政府? 総理大臣?

長嶋 まずは国土交通省ですけど、最終的には安倍総理、トップの責任です。

田原 安倍さんだけじゃなくて、宮沢さん以後、歴代総理全員だよね。

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マンションとは一つの村のようなもの