生物の遺伝子を精度良く改変できる「ゲノム編集」技術に関するルール作りが日本でも動き出しました。この技術で品種改良をした作物のうち、外部から遺伝子を組み込んだケースに限り安全審査など規制の対象にする方針を環境省と厚生労働省が決めました。医療分野では受精卵でのゲノム編集の研究が来春解禁されることになり、この分野の研究も加速しそうです。
ゲノム編集は従来の遺伝子組み換え技術と比べて、効率よく遺伝子を操作できるのが特徴です。難病の原因となる特定の遺伝子の機能を無くしたり、作物の収量や品質を向上させるため遺伝子を改変したりできます。
特に2012年に登場した「クリスパー・キャス9」というゲノム編集技術は、取り扱いの容易さから世界中のバイオ・医学研究者に普及しました。研究成果も相次ぎ、ノーベル賞の有力候補とみなされています。
ゲノム編集の応用分野は作物や家畜、水産物、花卉(かき)などの品種改良を目指す農水産分野と、病気の治療を目的とした医療分野に大別されます。前者は従来の突然変異を利用した品種改良や遺伝子組み換え作物に代わるもの、後者は遺伝子治療の新しい手法といえます。
外部の遺伝子をウイルスなどを使って導入する遺伝子組み換えや遺伝子治療では、不適切な場所に遺伝子が組み込まれる可能性があるのに対し、ゲノム編集は目的とする遺伝子を高い確率で改変できることから、実用化の期待も高いといえます。
それでも人為的に遺伝子を変えることには変わりないので、欧州司法裁判所は7月、ゲノム編集で開発した作物であっても、原則として従来の遺伝子組み換え作物と同様の規制をすべきだとの判断を示しました。
これに対して日本では環境省が、外部の遺伝子を組み込んだ場合は生態系への配慮から規制の対象にするものの、遺伝子の一部を壊すなどの改変については規制しないことにしました。厚労省も食品安全の観点から同様のルールを作る見通しです。