苦労の末に完成したペン先は、軸を指にのせて、ペン先を紙の上に置き、そのまま動かすだけできれいに線を引くことができる。この書き心地は実際に体験してみないとわからないだろう。

どんな場面でも普通に使える

カスタムURUSHIが発売されたのは2016年夏。数十年作られるものも珍しくない万年筆の世界では、カスタムURUSHIはまだ新製品みたいなものだ。人気が高い上に「漆塗りの軸を一本作るのには半年はかかる」というだけであって、いまだになかなか手に入らないという声も聞く。

「ぜひ一度、実際に書いてみてほしい」という武井さん。たしかにその書き心地には驚く

だがぜひ一度、その書き心地をどこかで体験してみてほしい。武井さんも「書いてもらえればわかると思いますので、ぜひ手にとってください。その書き心地はわたしがしゃべっているだけでは絶対に伝わらないので」とその点を強調する。

カスタムURUSHIは紙の上をなぞるだけで書けてしまう。「書く」という作業に使われていた労力のあり方自体が変わるような筆記体験だから、最初は戸惑うかもしれない。

だが書くことが気持ちよいものだから、書き方にはすぐ慣れる。一度慣れてしまえば、楽に書けるから、長時間の執筆でも疲れないし、筆運びがスムーズになるからか文字も丁寧にかける。大きなペン先の割には小さな文字も書きやすい。大事な人への手紙や、人前でサインするといった用途はもちろん、どんな場面でも普通に使えるから、毎日使う、常に持っている一本としてとても頼もしい存在になるだろう。

例えば1000円のkakunoは、万年筆が使いやすく魅力的な筆記具だということを教えてくれる製品で、それはそれで素晴らしいものだ。しかし、カスタムURUSHIは筆記具そのものの可能性を見せてくれる製品。同じ万年筆でも、書く道具としての性能が全く違う。ボールペンと万年筆の道具としての違いを知りたければ、カスタムURUSHIを使ってみてほしい。文字を書くことがとても楽になって、一生、手放せなくなる筆記具をこの価格で手に入れられるなら、それはお買い得というものだろう。

高価な高級万年筆だが、持ち歩いたら心強い一本になるに違いない
納富廉邦
 佐賀県出身、フリーライター。IT、伝統芸能、文房具、筆記具、革小物などの装身具、かばんや家電、飲食など、娯楽とモノを中心に執筆。「大人カバンの中身講座」「やかんの本」など著書多数。

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(写真 飯本貴子)