「10万円の万年筆」というと実用的ではないと思うかもしれない。しかし高価にもかかわらず、万年筆を見続けてきた文具ライターの納富廉邦氏が「常に持っていると頼もしい存在」と語るのが、パイロットの「カスタムURUSHI」だ。納富氏が「世界一の万年筆かもしれない」と評価するこの製品はどうやって生まれたのか。そして何が魅力なのか。
筆圧ゼロで書けるということ
「最も良い万年筆」とは何か。その問いに回答はないだろう。
好みは千差万別だし、何を書くか、どこに書くかでも違ってくる。きょう書いたときは最高に気持ちよいと感じたペンが、あすになるとそれほどの感動がなかったりすることもある。
ただ、そんな「常識」を超えて「これは世界一かもしれない」と思ってしまったのが、パイロットの「カスタムURUSHI」という万年筆だった。
「万年筆は筆圧ゼロで書ける」といわれるが、それがどんな状態かを、カスタムURUSHIは問答無用で体験させてくれた。ペン先が紙に触れるか触れないかくらいで、しっかりした線が書けてしまうのだ。
万年筆としてはかなり大きなペン先なのだが、筆圧がいらないため、小さな文字も自在に書ける。手帳などに立ったままで書くときも、紙をペン先に押しつける必要がないからすらすらと快適に書ける。実際に使ってみると、この万年筆がものすごく実用性が高いことがわかる。

エボナイトの軸に蝋色漆(ろいろうるし)を塗って仕上げた高品質の製品だから、実勢価格で9万5000円と安価ではない。しかし明らかに「書くための道具」として作られているこの万年筆は、どうして生まれたのか。開発の責任者である営業企画部蒔絵NAMIKIブランド推進担当課長、武井紀美江氏に話を聞いた。
27年ぶりの新開発
「製品を作る最初のきっかけは、5万~10万円の万年筆がほしいという取引店からの要望でした。高級筆記具は贈答用や自分への記念品としてニーズがあります。ただパイロットの実用筆記具では『カスタム845』という万年筆が5万円で一番高い製品でした。そこでパイロットらしい高級万年筆を作ろうという計画が始まったのです」