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白州の名水、スパークリング酒にリボーン 山梨銘醸ぶらり日本酒蔵めぐり(5)

純米大吟醸の古酒で醸した「七賢 EXPRESSION 2018」はキース・ヘリングとコラボしたパッケージに

10月初め、山梨銘醸はスパークリング日本酒の新商品「七賢 EXPRESSION(エクスプレッション) 2018」を発売した。720ミリリットル瓶で1万6200円(税込み)と値付けは破格。「世界に通用するスパークリング日本酒を目指した渾身の商品」という。瓶内二次発酵させガス圧の基準を満たしたスパークリング日本酒に「貴醸酒」の製法を取り入れた。

純米酒はコメと米麹と水で造る。貴醸酒とは、水の一部を酒に置き換える、いわば「酒を酒で醸す」製法だ。EXPRESSIONでは水の代わりに入れる酒として大吟醸の古酒を使った。「15年ものの古酒です。歴代の杜氏が丹精込めて醸した最高傑作の大吟醸がスパークリングとしてリボーン(生まれ変わり)する試みです」

「貴醸酒の瓶内二次発酵なんて今まで誰もやったことがなくて、造り方は教科書にも書いていない。エクスプレッションは表現という意味ですが、この商品には私のアートの感覚が詰め込まれているんです」。亮庫さんの口調が熱を帯びる。独特の感性が生み出した作品であることを知ると、パッケージにキース・ヘリングを採用したのもうなずける。

「文化蔵」には純米大吟醸の古酒などが眠る

北杜市にはキース・ヘリングの作品を集めた「中村キース・ヘリング美術館」がある。パッケージにキース・ヘリングをあしらった背景には美術館の中村和男館長との交流があったという。「中村館長とはよく、飲みながらいろいろな話をします。キースの作品には以前からひかれていました。愛とか平和とかをテーマに、彼なりの時代背景を背負った表現と、酒造りでの自分なりの表現と、分野は違うけれどシンクロするように感じていたんです」

亮庫さんは2015年以降、毎年、スパークリング日本酒の新商品を発売している。2017年発売の「七賢 杜ノ奏」はサントリー白州蒸留所で使うウイスキー樽(たる)を借りて仕込んだ。「借りるまでに2年以上かかりました。あるとき、北杜市で開かれている野外バレエのイベントに鳥井信吾さん(サントリーホールディングス副会長)が来られる情報をキャッチして直接、思いを伝えたところ、快くオーケーをもらいました」

甲州街道・台ヶ原宿の脇本陣として使われた座敷が今も残る

「蒸留酒と醸造酒という異質なものを白州という土地がつなぐ、という物語を紡ぎたくて、諦めきれませんでした。高級シャンパンがもつラグジュアリー感を、ウイスキー樽を使うことで表現できるのではないか、と考えました」。口に含むとウイスキー香が広がり、味わいは複雑さを帯びる。今後も毎年、樽を借りて仕込む予定という。

スパークリング日本酒を売り始めてまだ4シーズン目だが、約6億円の売上高の25%を占めるまでに急成長している。東京オリンピック・パラリンピックまでにどれだけ存在感を高められるか、正念場が続く。「スパークリングの分野では先行している自負はあります」と亮庫さんは自信をのぞかせる。

山梨銘醸の初代当主は赤石山脈を越えて西側の高遠(現・長野県伊那市)から移り住んだ。蔵を構えたのは甲州街道の宿場町、台ヶ原宿。甲府と諏訪のほぼ中間に位置し、江戸時代は栄えたという。蔵の敷地には、脇本陣として使われた建物が今も残り、見学できる。蔵見学は10月から翌年5月まで。5万人が訪れる。

(アリシス 長田正)

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