植物の警報伝達の映像化に成功 知性解明の手がかり
植物は、自身の葉などが傷つけられると、その部位からほかの部位に警報を発して防御機構を発動させる。このほど研究者たちが、この防御反応を映像化に成功した。動画とともに、解説していこう。
この研究の論文は、埼玉大学の豊田正嗣准教授らにより2018年9月14日付けの学術誌「Science」に発表された。植物の「知性」という難しい問題の解明につながる可能性もある。
同じく論文の著者の1人で、米ウィスコンシン大学マディソン校の植物学研究室を率いるサイモン・ギルロイ氏は、「植物は適切なタイミングで適切なことをしていて、非常に知的に見えます。環境から膨大な量の情報を感知し、処理しているのです」と言う。「これだけ高度な計算をするためには脳のような情報処理ユニットが必要だと思うのですが、植物には脳はありません」
植物が内部でどのように情報を伝達しているかを調べるため、ギルロイ氏の研究チームは、植物の遺伝子を改変してクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質を組み込んだ。この蛍光タンパク質は特定の物質と結合させることができるので、植物の内部にある化学物質が刺激に対してどのように反応するかを観察するのに利用できる。
毛虫に葉をかじられるなどの攻撃を受けた植物は、グルタミン酸というアミノ酸を出す。グルタミン酸は植物全体のカルシウム濃度を上昇させ、これにより防御機構が起動し、植物をさらなる損傷から守る。ある種の植物は、攻撃してくる昆虫を撃退したり、その昆虫を捕食する別の昆虫を引きつけたりする揮発性化合物を放出する。例えばワタは、ガの幼虫にかじられると、幼虫を捕食するスズメバチを引きつける物質を放出する。
この研究のため、ギルロイ氏のチームは蛍光タンパク質をカルシウムと結合する別のタンパク質とつなぎ合わせて、カルシウム濃度が急激に上昇すると光を発する植物を作った。
損傷した植物を顕微鏡で観察すると、シグナルがほんの数分ですみずみまで広がるのをリアルタイムで見ることができた。植物内部の伝達に関する同様の研究から、グルタミン酸とカルシウムが伝達プロセスに重要な関与をしていることはわかっていたが、このプロセスをここまで鮮明にとらえたのはギルロイ氏の研究チームが初めてだ。
「植物が防御機構を発動する仕組みを解明することができれば、私たち人間もそれを利用できるようになるかもしれません。例えば、特定の病害虫の大発生が予想されるときには、先に植物の防御機構のスイッチを入れておき、問題が発生する前に守りを固めさせることができるでしょう」
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2018年9月14日付記事を再構成]
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