巨匠ヒューイット 世界5都市でバッハ全曲ピアノ演奏

バッハの鍵盤曲は「ゴルトベルク変奏曲」「平均律クラヴィーア曲集」「イギリス組曲」など膨大にある。しかもこうした曲集を最小単位で1曲ずつ数えると、様々な変奏曲、前奏曲とフーガ、またはアルマンドやメヌエットといったダンス音楽など、全体で数十曲組み合わせて構成しているため演奏時間も長い。

全曲CD録音2回目は伊ファツィオリのピアノ

「ゴルトベルク変奏曲」をはじめヒューイット氏の公演は、一人で延々と80分以上弾き続けて一つの世界を築き上げるといった印象だ。その中には誰もが知る有名な一曲というのもある。だがあくまで曲集全体の長く広がる時間の中で、深遠なバッハの世界に聴き手を引き込んでしまうのが彼女のマジックだ。

伊ファツィオリのピアノで録音したアンジェラ・ヒューイット氏の最近のCD。右から「ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第17番《テンペスト》」「J・S・バッハ 平均律クラヴィーア曲集全曲(4枚組)」「スカルラッティ ソナタ集Vol.2」(レーベル:英ハイペリオン、輸入・発売:東京エムプラス)

――バッハの鍵盤作品の魅力は何か。

「バッハの作品には300年前に作られた古臭い音楽という感じが全くない。とても新鮮で生き生きとしていて、現代的でさえある。それはやはりメヌエットやブーレといったダンスのリズムをもとにした音楽だからだと思う。『トッカータ』『パルティータ』などいずれの曲集でも、それを構成する各曲がダンスのリズムをもとにしている。それが聴く人にとても喜びを与える」

「バッハの作品はいろんな異なったレベルで楽しむことができる。音楽の専門家でも、音楽教育を受けたことのない人でも、各人のレベルに応じて楽しめる。それはやはりダンスのリズムを持つ音楽だからだろう」

ヒューイット氏のバッハ全曲CD録音は今や2回目に入っている。1回目の全曲録音で彼女が使用していたのは米スタインウェイ・アンド・サンズのピアノだった。だが2回目の「平均律クラヴィーア曲集全曲(4枚組)」と1回目最後の「フーガの技法」から彼女が選んだのは、1981年創業の伊ファツィオリのピアノだ。イタリアらしい乾いた明快な響きで「歌うピアノ」といわれる。そのファツィオリを弾いてすでにバッハ作品では2回目の「ゴルトベルク変奏曲」もCD録音した。

バッハの生きた時代にはまだ現代の仕様のピアノはなかった。鍵盤音楽とはいっても、チェンバロやフォルテピアノなど当時の仕様の楽器で弾く古楽奏者の演奏も台頭して久しい。そうした中で現代仕様のピアノにこだわり、とりわけ新興メーカーのファツィオリを好んで使う著名ピアニストとしても、ヒューイット氏は異彩を放っている。

――現代仕様のピアノ、特にファツィオリにこだわる理由は何か。

「ピアノはすでにバッハの生きた時代に発明され始めていた。当時は人間の声を出せるような鍵盤楽器が追求された。バッハには特に4つの声部を持つ曲が多い。ファツィオリのような現代仕様のピアノだと、そうした4声を異なる音色で弾き分けることができる。(3本ペダルの他のピアノと異なり)ファツィオリは4本ペダルを持っていることもあり、オーケストラのような色彩、歌手のような色彩、オーボエやオルガンの音色など、異なる音を豊かに出せる」

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