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年金繰り下げ 「損得」を見極める5つの注意点

2018/10/19

写真はイメージ=PIXTA

年金をもらい始める時期を遅らせて受取額を増やす「繰り下げ」の注目が高まっている。人生100年時代に備えた資金手当てに有効との考えからだ。ただ、増額率などの「おトク感」ばかりが先行し、制度の仕組みや内容はあまり知られていないのが現状だ。

■支給開始遅らせ 5年で最大4割増~「繰り下げ派」じわり増加

東京都内に住む沢木明さんは68歳。51歳で勤め先を早期退職し、社会保険労務士として独立した。自宅事務所での相談業務に加えて企業や自治体のセミナーの講師として全国を駆け回る。本来なら65歳から支給が始まる年金はまだもらっていない。「65歳時点の年金額は年200万円程度で以前の勤め先の同僚より30万円ほど少なく、悔しい思いをした。70歳まで繰り下げれば約280万円に増える」。繰り下げの仲間を増やしたいと各所で利点を説く。

平均寿命は女性の方が長い(東京・豊島)

年金の支給開始は原則65歳だが、希望すれば60~70歳の範囲で選ぶことができる。65歳より早くもらうのを「繰り上げ受給」、66歳以降に遅らせることを「繰り下げ受給」と呼ぶ。月単位での変更が可能で繰り上げは1カ月ごとに年金額が0.5%減り、繰り下げは同0.7%増える。最も早い60歳まで繰り上げると30%減り、上限の70歳まで繰り下げると42%増える。そしてもらい始めたらその金額は一生続く。

繰り下げは支給開始を遅らせるだけで金額が年約8%、5年で4割以上増えるおトクな仕組み。だがこれまで実行した人は少ない。厚生労働省の調査(2016年度)によれば、国民年金の受給権者(老齢厚生年金の受給権はなし)に占める割合は繰り上げ34%に対して繰り下げは1%台。制度自体の認知度が低いことに加えて、遅らせている間は無年金で耐えられるだけの経済的な余力が必要だからだろう。

ただ、新たに国民年金の受給権を得た人(新規裁定)でみると、繰り上げが大きく減っている半面、繰り下げは12年度の1.2%から2.7%に増えた。厚生年金では繰り下げ比率は1%台だが、人数では毎年度1万人以上増加している。「繰り下げ派」がじわり増しているといえそうだ。

長生きするシニアが増える一方、年金の原資となる保険料を負担する現役世代が減っていく現状を映した。先細りする年金額を少しでも増やしたいとの思いが強まっているのだろう。国が2月にまとめた「高齢社会対策大綱」では繰り下げについて、さらに70歳以降の受給開始も選択できるように検討するとした。70歳超に繰り下げた場合は増額率を月0.7%より積み増す。新制度は19年の公的年金の財政検証を踏まえて3年程度で導入する見通しだ。

具体的な手続きはご存じだろうか。そもそも年金は、原則として年金事務所で手続きをしないと支給は始まらない。何もしなければ支給開始は66歳、67歳と延びていき、自動的に繰り下げになる。事前に時期を決めておく必要はなく、もらい始めたいときに手続きをする。先延ばしの間は方針変更も自由だ。70歳まで繰り下げようと思っていた人が、途中で健康に不安を感じて早めの68歳からもらい始めたいと思ったら、その時点で手続きをすればよい。

受け取り方は2つ。「繰り下げによる増額請求」と「増額のない年金を遡って請求」のどちらかを選ぶ。68歳からもらう場合、前者は約25%増えた年金額をもらい、後者は65~68歳までの期間にもらえるはずだった金額を一括で受け取り、以降は増額のない本来の年金額をもらう。起業や家のリフォームをしたり、病気になったりしてまとまった金額が必要になったら後者が有効だろう。人生設計や懐具合に合った選択が可能といえそうだ。

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