ヘルスUP

日経Gooday 30+

本庶氏開発のがん治療薬オプジーボ 効果には個人差

2018/10/10

ノーベル生理学・医学賞を受賞することが決まり、記者会見する京都大学の本庶佑特別教授(10月1日、京都市)
日経Gooday(グッデイ)

「Bench-to-bedside」――。研究室の作業台の上で生まれた成果が画期的な薬剤になって、世界中の患者の元に届き、多くの命を救うこと。これが医学領域の基礎研究を行う研究者の願いです。2018年のノーベル医学生理学賞を共同受賞した、京都大学の本庶佑氏と米テキサス大学のジェームズ・アリソン氏は、いずれもこの願いをかなえた数少ない研究者です。

本庶氏らの受賞理由は、「がん細胞による免疫抑制を解除する、全く新しいがん治療法を発見したこと」。2人は、それぞれ別の分子(いずれも免疫チェックポイント分子;詳細は後述)に注目し、基礎研究を進めて、その作用を阻害することでがん細胞の増殖を防ぐ治療薬「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)と「ヤーボイ」(一般名イピリムマブ)の開発に結びつけました。

■「免疫のブレーキ」を外してがんを攻撃させる、全く新しい治療法

本庶氏らが開発した薬剤は、免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれます。この薬は、従来の治療薬とはどう違うのでしょうか。

私たちが健康を維持するには、外から入ってくる様々な異物(ウイルスや細菌など)を排除する、免疫の働きが不可欠です。ところが、免疫機能が暴走すると、本来は有害ではないもの(例えばスギ花粉や自分の体の組織など)に対して過剰に反応し、アレルギーや自己免疫疾患(関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなど)を引き起こします。免疫系には、こうした暴走にブレーキをかける抑制機構が備わっており、これを制御しているのが、免疫チェックポイント分子です(チェックポイントには検問所という意味があります)。

がん細胞は、ブレーキとして働く免疫チェックポイント分子を悪用し、自らに対する免疫反応にブレーキを掛けて攻撃を回避し、増殖しています。そのブレーキを解除し、免疫系ががん細胞を攻撃できるようにするのが、免疫チェックポイント阻害薬というわけです。

■発見当初はその機能が不明だった「PD-1

オプジーボは、免疫細胞の表面に存在する免疫チェックポイント分子PD-1(programmed death-1)に対する抗体からなり、がん細胞の表面に存在するPD-L1(Programmed death-ligand 1)とPD-1の結合を阻止して、ブレーキを解除します。

本庶氏らのグループは1992年に、T細胞(リンパ球の一種で、免疫機能において司令塔の役割を果たす)に細胞死を引き起こすと発現[注1]が上昇する遺伝子を発見、PD-1と名付けました。その後しばらく、PD-1の機能は不明でしたが、1998~1999年に、PD-1を持たないマウスを使った研究により、この分子が体内で免疫反応を抑制していること、PD-1を持たないマウスは自己免疫疾患を発症することを明らかにしました。

その頃、免疫系の攻撃を受けては困る正常な細胞の表面にPD-L1が存在し、これがPD-1と結合すると、免疫反応が抑制されることが示されました。

本庶氏らは、がんを発症すると、人間の体にはがんに対する免疫反応は起こるものの非常に弱い点に注目し、PD-1とPD-L1による免疫抑制が起きているのではないかと考えました。そこで、PD-1を持たないマウスと、マウスのPD-1、PD-L1に対する抗体を使った実験を行い、がん細胞は表面にPD-L1を持ち、免疫細胞のPD-1と結合して免疫系にブレーキをかけ、攻撃を回避していることを突き止めました。

こうした結果に基づいて、患者の治療に用いることができるヒト型のPD-1抗体オプジーボの製造が始まり、日米で行われた臨床試験では好結果が得られました。治療によってがんが縮小した患者の一部では、効果が持続することも示されました。国内ではオプジーボは、2014年7月に悪性黒色腫を対象に承認されました。これまでに、いずれも特定の条件を満たす非小細胞肺がんや腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、胃がん、悪性胸膜中皮腫の患者への投与が認められています。

[注1] 発現:一般には、遺伝情報がmRNAを経てタンパク質へと翻訳され、それが生体内で機能することをいう。狭義として、ある遺伝子に対応するmRNAが合成されることをいう場合もあり、ここでいう「発現が上昇する」は、転写が活性化され、遺伝子の読み出しが活発になったことを意味する。

ヘルスUP 新着記事

ALL CHANNEL