「五輪と一緒ダメなの?」 宮城まり子さんが語るパラねむの木学園の半世紀(上)

「あの子たちは、人生の一つの山を越したのよ。生まれたときから障害があって、訓練したり手当てしたりして乗り越えたのよ。ベートーベンはどこか悪くなかった? モーツァルトもどこか、おかしいでしょ。ゴッホだって、おかしいといったらおかしい。どこかにマイナスの面があるから、それを補うものがあるんじゃないかな」

子供たちのダンス練習をみる宮城さん

――一方で「障害を持っているのに、こんなすごい絵を描ける」と思う人もいるでしょうね。

「山下清さんは障害があるから(描いた絵が)面白いと言うの? 言わないでしょう。谷内六郎さんの絵を、障害がある人の絵と言うの? 谷内さんは感じることが多いから、絵が子供っぽいでしょう。わざと、そうしているの。(人を感動させる)レベルまで達すれば、どっちだっていいじゃない」

「でも駄目な絵も、これ障害を持っている人が描いたから認めろというのはよくないわね。ねむの木で展覧会をやるときの怖さはそれ。私はそんなふうに見てほしくない。そう思われなくなった今も、その怖さはあります」

――障害の有無と絵の良しあしが、なかなか切り離されないもどかしさはないですか。

「(子供が描いた絵の一つを手にとって)これなんか額に入れて、立派な絵描きさんのようにしたらどう? だれか、だましちゃおうか。この絵は、ちょっと暗めのコーヒーショップにかけるといいと思うんだけどな」

「(別の絵を手にとって)これは正直に言うと、絵になっていないと思うのよね。何、これって。でも、その子にはその子の色の使い方がある。知らない絵描きさんの絵だったら、ぽんと批評するかもしれないけれど、(ねむの木の子供のことは)愛しているから、そうは思えない」

子供たちの美しい姿を知ってほしい

――ねむの木では子供たちの映画も撮りました。どういう思いからだったのですか。

「ねむの木をつくったのと同じです。健康でかわいい子は映画に出るのに、なぜ体が悪かったら映画ができないんだろうと。(演技が)下手だからかな。子供だったら下手もくそもないんじゃないかな。ねむの木の子供を見ていて、『美しい姿を撮っておいてあげたい』という気持ちです」

――かつて日本では、障害は隠したほうがいいという考え方があったといいます。

「あったもあった。隠していた」

――そういう偏見を覆したい気持ちもあったのではないですか。

「はい。世界の映画交流をされていた川喜多かしこ先生から、海外の映画祭に出しなさい、出さない方がおかしいと言われて、出したの。4本撮って、すべて外国で大きな賞をいただきました。(2作目の『ねむの木の詩がきこえる』では)グランプリ、(その映画祭で)世界一よ。どうだ!」

「うれしかった、というよりびっくりした。何千人というお客が立ち上がって拍手してくれて。会場にいた日本人は私と川喜多先生だけで、先生からは『これが世界のスタンディングオベーションよ。忘れずにいなさい』と。いろいろな人から抱きしめられて、あちこちいっぱいキスされました」

◇   ◇   ◇

<聞き手から>

もう一歩先の「共生」めざして

障害の有無を超え、互いに認め合える社会に――。今でこそ多くの日本人が共有するようになった共生の理念を、半世紀前から追い求めてきたのが宮城まり子さんだ。生来、頭でこねくり回す理屈は大嫌い。精神疾患など重い障害を持つ子供たちに寄り添いながら、文字通り体当たりで道を切り開いてきた。

歌手としてヒットを飛ばし女優としても活躍した宮城さんが着目したのが芸術、なかでも絵画だ。子供の感受性を育んで、眠った才能を引き出せば、障害を持たない人では描けないような優れた作品が生まれるのではないか。「パラリンピックは嫌い」という言葉には、境界線のない、一歩先の未来を願う気持ちが込められている。

(オリパラ編集長 高橋圭介)

宮城まり子
1927年3月生まれ。55年、「ガード下の靴みがき」で歌手デビュー。その後、女優としてミュージカルの舞台に立つ一方、映画やテレビ・ラジオにも多数出演。68年に日本初の肢体不自由児養護施設「ねむの木学園」を設立。79年、肢体不自由児のための特別支援学校「ねむの木学校」を開校。子供たちが描いた絵の展覧会やコンサートを開くほか、「ねむの木の詩が聞こえる」(77年)など4本の映画を製作・監督し、国内外で高い評価を得る。作家の故・吉行淳之介氏のパートナーとしても知られる。

ねむの木50年に合わせて実施した、宮城まり子さんのロングインタビュー。太陽の家創始者である中村裕さんとの交友を明かした中編「宮城まり子さん、盟友はパラ生みの親 ともに障害学ぶ」、重い障害を持った子供たちの自立について語った後編「『これでよかったの?』宮城まり子さん、半世紀の自問」も合わせてお読みください。

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