『若おかみは小学生!』 旅館修行、小6の成長物語
作家の令丈ヒロ子(絵は亜沙美)が2003~13年に発表した児童文学シリーズ『若おかみは小学生!』(講談社青い鳥文庫)。テレビアニメに続いてアニメ映画化された。
交通事故で両親を亡くした小学6年生の"おっこ"(関織子)は、花の湯温泉にある祖母が経営する旅館「春の屋」で、ひょんなことから若女将修業をすることになる。初めての経験の連続で様々な壁にぶつかりながらも、旅館に住む幽霊のウリ坊や美陽(みよ)、小鬼の鈴鬼(すずき)ら、不思議な仲間たちとともに、前向きに突き進む、おっこの成長物語だ。
監督は『もののけ姫』(1997年)など多くの宮崎駿&スタジオジブリ作品で作画監督を務め、監督作『茄子(なす)アンダルシアの夏』(03年)が国内外で高い評価を得た高坂希太郎氏。15年ぶりに劇場作品を手掛ける高坂監督は原作のどこに魅力を感じたのか。
「話をいただいたときは、正直(少女向けの児童文学という題材が自分に来たことに)驚きましたが、令丈さんの原作が面白くて」(高坂監督)。「(主人公の女将修業、ウリ坊は祖母の少女時代の幼なじみ、日本各地の景色やお祭りなど)いろいろなファクターがうまく1冊に収められていて、例えば登場人物も多いですが、誰もおざなりになることなく話に絡んで物語が流れていく。その展開に感心し、『なるほど人気が出るだろうな』と納得しました」
どうアニメに落とし込もうと考えたのか。
「旅館業は特殊な職業だと思うんです。お客様ありきで、自分を抑えてお客様の満足のために尽くさなくてはいけない」
「僕の感覚ですが、最近のアニメは"自分の気持ちを分かってほしい"とか"本当の自分って何"など自分に焦点を当てたものが多い。でも、それとは正反対の主人公かつ物語で、そこが面白い。おっこが最後、自分自身でなく若女将として問題を解決する、そこをしっかり描ければと」
原作小説は全20巻。1本の映画にするためのエピソードの選定には頭を悩ませたそうだが、基準となったのは「おっこの成長」だ。「おっこを象徴する存在として3つのエピソードと人物を選びました。『春の屋』を訪れるお客様は、それぞれ今と未来と過去のおっこを現しています」
名アニメーターだけに映像にも注目が集まる。「原作の挿絵を意識したかわいらしい画を生かすため、背景もリアルさより鮮やかさに重点を置きました。かわいいは僕にはない感覚なので苦労しましたが(笑)、作画、美術、色彩設計のスタッフが挑んでくれました」
最後に「親子で楽しんでほしい」と高坂監督。
「子どもと親世代では見るポイントや感じ方が違うと思う。見終わった後に親子で会話が生まれるような、新たな関係性を築いてもらえるような作品になっていたらうれしいですね」
(「日経エンタテインメント!」10月号の記事を再構成 文/山内涼子)
[日経MJ2018年10月5日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。