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ロシア人歌手ヴィタリ 東京に住んで日本の歌を熱唱

2018/10/6

ヴィタリ氏は旅行先や移住地として日本に憧れただけではない。声楽家として日本の歌そのものに魅了されたのが実情だ。世界三大テノールの一人、ホセ・カレーラス氏が各国の名曲を歌うCDのプロモーション・コンサートを聴いて、その中に「美空ひばりさんの『川の流れのように』があった。それから彼女の歌を聴くようになり、この人は天才だと思った」と語る。

美空ひばりバージョンから聴き始めて練習

各国にはそれぞれ国民的歌手がいる。カレーラス氏はCDの中で例えばフランスの名曲としてエディット・ピアフの「愛の讃歌」を歌っている。だがヴィタリ氏は「ピアフがシャンソンという自分のジャンルの中でしか歌わなかったのに対し、美空さんは演歌からポップス、歌謡曲、民謡、ジャズまで歌った。そこにはオペラのアリアまであった」と称賛する。今回のCDに収めた多くの日本歌曲は「美空さんが歌ったバージョンから聴き始めて練習を重ねた」と経緯を説明する。

インタビューに答えるロシア人歌手(バリトン)のヴィタリ・ユシュマノフ氏(9月19日、東京都中央区の協働ステーション中央)

「私はオペラ歌手だからポップスは歌えない。Jポップも知らない。でも美空さんのレパートリーは歌いたい。彼女は特別だ」と話す。今回のCDに収めた彼女のレパートリー「津軽のふるさと」には特に愛着があるようだ。米山正夫氏が作詞作曲したこの歌についてヴィタリ氏は「ロシア民謡に日本語の歌詞をつけて歌っているのかと勘違いするほど心に響いてきた」と言う。Jポップやロックにまで染み込んでいる日本人好みの哀愁と叙情の短調のメロディーラインだ。ヴィタリ氏は完璧な発音でこの歌を表情豊かに歌っている。

「日本語とロシア語は子音も母音も響きが違う。でも音楽は似ているところがある」と話し、日本人もロシア人も短調の曲を好む傾向を挙げる。今回のCDにも「荒城の月」や「津軽のふるさと」をはじめ短調の曲が多い。ヴィタリ氏は日本人がロシアのチャイコフスキーとラフマニノフの音楽を好むことも挙げて「特にラフマニノフの作品は日本人が演奏するとうまい」と指摘する。ラフマニノフ作品で人気の高いピアノ協奏曲全4曲も交響曲全3曲もすべて短調だ。

チャレンジングな「ドン・ジョバンニ」

ヴィタリ氏が生まれたサンクトペテルブルクはフィンランド国境に近いロシア西端の大都市だ。しかし彼は「ロシアは欧州ではない。アジアの国だ。日本の隣国」と言う。互いの言葉は「似たところを探すのも難しいほど異なる。歌曲は歌詞がとても大事なので、塚田先生にもっと教わっていきたい」と語り、言葉と歌の勉強を続ける構えだ。

19年1~2月には井上道義氏の総監督・指揮、森山開次氏の演出・振付による「ドン・ジョバンニ」(東京芸術劇場など全国4公演)で題名役を演じることが決まっている。モーツァルトのオペラでは「フィガロの結婚」に続きロレンツォ・ダ・ポンテがイタリア語で台本を書いた作品だ。ヴィタリ氏がドイツ留学時代から得意にしてきたオペラだが、今回ばかりはチャレンジングなようだ。なぜなら「全幕日本語上演」だから。「私はもっとオペラを歌いたい。来年の日本語版『ドン・ジョバンニ』も楽しみ」。日本人歌手になりきって臨むオペラから新たな歌の世界が開けてきそうだ。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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