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ロシア人歌手ヴィタリ 東京に住んで日本の歌を熱唱

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東京在住のロシア人歌手ヴィタリ・ユシュマノフ氏(36)が日本の歌に取り組んでいる。9月に日本名歌集のCDを出し、10月には日本歌曲を含む公演も開く。ロシアの名門オペラハウス、マリインスキー劇場の一員として2008年に初来日した彼が、移住してまで日本に入れ込む理由を探った。

厚みのある低いバリトンの歌声が部屋中の床や壁を震わせる。オペラで鍛え抜かれた圧倒的な声量で彼が朗々と歌い上げたのは土井晩翠作詞、滝廉太郎作曲の「荒城の月」。9月26日に出た彼の3枚目のCDアルバム「『ありがとう』を風にのせて―日本名歌集―」(発売元:オクタヴィア・レコード)にも収録した近代日本歌曲の古典だ。CDには滝や山田耕筰、信時潔らの歌曲から文部省唱歌や現代の歌まで23曲を収めている。彼の歌を指導しているピアニストの塚田佳男氏が伴奏を務めた。

マリインスキー劇場の一員として初来日

「『荒城の月』にはストーリーがない。1枚ずつ絵を見ている感じの曲。ちゃんと言葉を理解しなければ絵が出てこない。意味を全部理解すれば歌いやすい」。そう話す彼の日本語は自然な発音だ。外国人には苦手なはずの助詞の使い方も危なげない。日本で音楽活動を始めて5年の今年、「ヴィタリ」を芸名にし、オペラ出演や歌曲のリサイタルで活躍している。そこでこれから彼を姓ではなく「ヴィタリ」氏と呼ぼう。

「日本語は話しやすい。でも読むほうは漢字が難しい」とヴィタリ氏は言う。「新聞は読めるが、専門書になると漢字が多くて辞書をたくさん引かなければならない」。これまで彼はロシア語とドイツ語の翻訳でも日本の本を読んできた。「村上春樹さんの小説も読んだけれど、やはり『葉隠』が一番印象に残った。日本人のメンタリティーのベースは『葉隠』のほうだと思う」と語り、武士道にみられる日本人の精神に強い関心を示す。

「日本人になりたい」「前世は日本人だったのではないかと言われる」と語る彼が初来日したのは、世界的指揮者ワレリー・ゲルギエフ氏が芸術監督を務めるマリインスキー劇場の日本公演のときだった。参加する一歌手としての来日だった。「日本に来て最初の1秒でここに住みたいと思った」。本当か、と思ってもっと聞いてみると、「成田空港に着いて飛行機を降りたとき、懐かしい気がして自分の体がどこかに戻ってきた感じになった」と説明した。

 初来日したときに「日本にいたら絶対に幸せになれると思った」と振り返るヴィタリ氏。しかしロシアに戻って翌年に引っ越したのはドイツだった。独ライプチヒのフェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ音楽演劇大学で声楽を学んだ。「ドイツもそれはもういいところですよ」と語るなど、日本だけでなくドイツも大好きなようだ。

ドイツ留学を経て東京を拠点に音楽活動

ドイツ留学中には独バート・ヘルスフェルト音楽祭でモーツァルトのオペラ「ドン・ジョバンニ」の題名役を演じ、ライプチヒ・ゲヴァントハウスの「ニューイヤーコンサート」にも出演するなど実績を積んだ。ドイツ語も堪能になった。「日本が頭から離れなかったが、ドイツ語と同時に日本語を勉強することはできなかった。ひらがな、カタカナ、文法を勉強したが、漢字が難しくて途中で諦めた」。ドイツ語やイタリア語のオペラ、歌曲を学ぶ中で、日本が遠ざかっていくかと思われた。

しかし東日本大震災をはさむ2010、11、12年に来日し、移住を決意した。13年秋から度々来日して音楽活動に乗り出し、ブラームス「ドイツ・レクイエム」の独唱者やソロ公演などで活躍した。

「14年夏から日本に半年住み、最初は英語と日本語で半々、最後にはすべて日本語で話すようになった」。15年にはついに東京に移住し、CDデビューも果たした。以降、びわ湖ホール(大津市)で17年3月にワーグナーの楽劇「ラインの黄金」でドンナー役を演じ、同12月にはサントリーホール(東京・港)の「第2回オペラ歌手紅白対抗歌合戦」にも出演するなど目覚ましい活躍ぶりをみせている。

そしていよいよ日本語の歌だけを集めたCDのレコーディングを周りから勧められるようになった。「最初は自信がなかった。でも初来日から今年で10年、日本で音楽活動を始めて5年、(ピアニストで日本歌曲の伴奏法の権威である)塚田先生に習い始めて5年という節目でもあり、皆さんに感謝の気持ちを伝えるのならばCDを出してもいいと思った」と話す。

10月28日には東京文化会館(東京・台東)で日本での音楽活動5周年とCD発売を記念して「ヴィタリ魅惑のバリトン・リサイタル」を開く。ピアノ伴奏は塚田氏と山田剛史氏が担当する。滝や信時らの日本歌曲、レオンカヴァッロやトスティらのイタリアオペラや歌曲、シューベルトのドイツ歌曲、それにラフマニノフのロシア歌曲を組み合わせるなど、ヴィタリ氏のこれまでの歩みを網羅するプログラムだ。

 ヴィタリ氏は旅行先や移住地として日本に憧れただけではない。声楽家として日本の歌そのものに魅了されたのが実情だ。世界三大テノールの一人、ホセ・カレーラス氏が各国の名曲を歌うCDのプロモーション・コンサートを聴いて、その中に「美空ひばりさんの『川の流れのように』があった。それから彼女の歌を聴くようになり、この人は天才だと思った」と語る。

美空ひばりバージョンから聴き始めて練習

各国にはそれぞれ国民的歌手がいる。カレーラス氏はCDの中で例えばフランスの名曲としてエディット・ピアフの「愛の讃歌」を歌っている。だがヴィタリ氏は「ピアフがシャンソンという自分のジャンルの中でしか歌わなかったのに対し、美空さんは演歌からポップス、歌謡曲、民謡、ジャズまで歌った。そこにはオペラのアリアまであった」と称賛する。今回のCDに収めた多くの日本歌曲は「美空さんが歌ったバージョンから聴き始めて練習を重ねた」と経緯を説明する。

「私はオペラ歌手だからポップスは歌えない。Jポップも知らない。でも美空さんのレパートリーは歌いたい。彼女は特別だ」と話す。今回のCDに収めた彼女のレパートリー「津軽のふるさと」には特に愛着があるようだ。米山正夫氏が作詞作曲したこの歌についてヴィタリ氏は「ロシア民謡に日本語の歌詞をつけて歌っているのかと勘違いするほど心に響いてきた」と言う。Jポップやロックにまで染み込んでいる日本人好みの哀愁と叙情の短調のメロディーラインだ。ヴィタリ氏は完璧な発音でこの歌を表情豊かに歌っている。

「日本語とロシア語は子音も母音も響きが違う。でも音楽は似ているところがある」と話し、日本人もロシア人も短調の曲を好む傾向を挙げる。今回のCDにも「荒城の月」や「津軽のふるさと」をはじめ短調の曲が多い。ヴィタリ氏は日本人がロシアのチャイコフスキーとラフマニノフの音楽を好むことも挙げて「特にラフマニノフの作品は日本人が演奏するとうまい」と指摘する。ラフマニノフ作品で人気の高いピアノ協奏曲全4曲も交響曲全3曲もすべて短調だ。

チャレンジングな「ドン・ジョバンニ」

ヴィタリ氏が生まれたサンクトペテルブルクはフィンランド国境に近いロシア西端の大都市だ。しかし彼は「ロシアは欧州ではない。アジアの国だ。日本の隣国」と言う。互いの言葉は「似たところを探すのも難しいほど異なる。歌曲は歌詞がとても大事なので、塚田先生にもっと教わっていきたい」と語り、言葉と歌の勉強を続ける構えだ。

19年1~2月には井上道義氏の総監督・指揮、森山開次氏の演出・振付による「ドン・ジョバンニ」(東京芸術劇場など全国4公演)で題名役を演じることが決まっている。モーツァルトのオペラでは「フィガロの結婚」に続きロレンツォ・ダ・ポンテがイタリア語で台本を書いた作品だ。ヴィタリ氏がドイツ留学時代から得意にしてきたオペラだが、今回ばかりはチャレンジングなようだ。なぜなら「全幕日本語上演」だから。「私はもっとオペラを歌いたい。来年の日本語版『ドン・ジョバンニ』も楽しみ」。日本人歌手になりきって臨むオペラから新たな歌の世界が開けてきそうだ。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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