検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

本人の意思を尊重 英国で成果を上げる認知症ケアとは

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

日経Gooday(グッデイ)

英国国立認知症ケア・アカデミー「ハマートンコート」では、「パーソン・センタード・ケア」という考え方に基づいた認知症ケアを実践し、認知症の重症患者の状態が改善するなどの成果を上げている。認知症の母の日常を記録したドキュメンタリー映画『毎日がアルツハイマー』シリーズ(関口祐加監督)でも紹介されたパーソン・センタード・ケアとはどんなものなのか、どのように行われているのか。認知症ケアの第一人者で、ハマートンコート施設長のヒューゴ・デ・ウァール博士に話を伺った。

パーソン・センタード・ケアで患者の退院が可能に

パーソン・センタード・ケアは、認知症の人を一人の人間として尊重し、その人の立場に立って理解し、ケアを行うという考え方である。英国の心理学者、故トム・キットウッド教授が提唱し、英国ではNSF(National Service Framework for elder people 2001:高齢者サービスを行う際の国家基準2001年版)に取り入れられている。

2012年に開設された英国国立認知症ケア・アカデミー「ハマートンコート」では、このパーソン・センタード・ケアを取り入れた認知症ケアを行っている。ヒューゴ・デ・ウァール博士は2009年にハマートンコートの前身となる認知症専門病棟の責任者を引き継ぎ、旧態依然とした施設を建物ごと一新した。そして認知症ケアに適した設備と技術を備えたハマートンコートが誕生した。

「以前の病棟は病院の中でも最も古い建物で男女1棟ずつの2棟に44のベッドがありました。病室は薄暗く、患者さんのプライバシーはあまりありませんでした。ケアについても日中のアクティビティーが少なく、患者さんは同じ場所にただ座っているよりほかありませんでした。そして、患者さんが寝てくれない、暴れるなどの問題があれば抗精神病薬などの薬を使っていました。そんな環境が認知症の患者さんに良いわけがありません」とヒューゴ博士。

一方、新しく生まれ変わったハマートンコートは、3棟に39のベッドがあり、患者にはバスルーム付きの個室が与えられた。また、病棟からアクセスできる共用の中庭を造り、患者は自由に出入りができるようになった。「施設には人の動きを感知するセンサーが組み込まれているほか、日本では一般的かもしれませんが、英国では珍しい水道の蛇口が自動的に止まる技術も備えているので、認知症の患者さんに安心して過ごしてもらえるようになりました」(ヒューゴ博士)。ハマートンコートではこうした環境の中、看護師が24時間体制でパーソン・センタード・ケアを取り入れたケアを行うのだ。

ハマートンコートに入院するのは、認知症が進行して自宅やケアホームでのケアが難しくなった重症患者が多い。通常、認知症専門施設に重症の認知症患者が入院すると、亡くなるまで退院することは難しい。以前の施設でも入院期間は平均4年で、退院できる人は少なかったという。しかし、ハマートンコートが開設され、パーソン・センタード・ケアを行うようになってからの平均在院日数は4~6カ月程度と激減した。約95%の人は退院でき、そのうち約25%が自宅に戻り、約75%がケアホームなどに移る。抗精神病薬の使用も60~70%減ったという。

状態が安定した患者が退院する際、同施設ではその人に合ったケアプランを書き、「このようなやり方でケアを行ってください」とケアホームのスタッフや在宅医療に関わるスタッフ、あるいは介護する家族などに説明し、手渡す。さらに、言葉だけではなく、ハマートンコートの看護師が、ケアホームなどに赴き、どのようなケアを行うのか、具体的にケアを行ってその様子を見てもらい、引き継ぐという。

「パーソン・センタード・ケアには、誰にでも共通して使えるマニュアルがあるわけではありません。患者さんによって具体的な対応策は異なります。ですから実際に見てもらい、丁寧に説明しないと理解されないことも多いのです」とヒューゴ博士は語る。

薬に頼らず、その人の過去・感情・人格にフォーカス

では、パーソン・センタード・ケアは実際にどのように行われるのか。

例えば、夜中に起きて朝まで全然寝ない患者に対し、ハマートンコートでは、すぐに安定剤や睡眠薬を処方することはない。

「新人看護師の中には、『どうして寝てくれないのか分からないが、寝てくれないと困る』と言ってくる人もいます。そういうときは、患者さんのことをもっと理解しなさいと言って突き放します」とヒューゴ博士。もし、その患者に家族がいれば、まず話を聞く。その結果、ある患者は、以前、郵便配達の仕事をしていたことが分かったという。毎朝、2~3時に起きて出勤していたので、その習慣がよみがえり、真夜中に起きていたというわけだ。

では、その患者に対して、どのようなケアをするのか。パーソン・センタード・ケアでは、その人が心地よいと思う習慣を続けることを最優先させる。つまり、この患者は病気で眠れないわけではないので、薬は処方せず、本人がしたいようにさせ、それに合わせて看護師が見守ったり、介助したりするというわけだ。ハマートンコートでは24時間体制で看護を行っているのでそれも可能となる。

パーソン・センタード・ケアでは、そのように患者の意思を尊重するため、理解していない人が見たときに誤解を招く場合もあるという。

「例えば以前、床に座っていると安心するという患者さんがいました。立たせると不安になって、暴れたりするので、患者さんの気持ちを理解した上で、床に座ってもらっていました。しかし、ある日、患者さんのご家族が来て、通路の床に座って足を投げ出している患者さんをスタッフが乗り越えて移動する光景を見たとき、『なんて失礼なことをするのだ』と怒ったのです。多くの施設ではこうした家族の反応を気にし、あるいは説明するのが面倒で、患者さんが望んでも床に座らせず、暴れるなどしたら薬で対処してしまいます。しかし、パーソン・センタード・ケアでは、『床に座っていると安心』という患者さんの気持ちを理解した上で、その意思を尊重するのです。何を評価基準に持ってくるかでケアの仕方や結果は全く違ってきます」とヒューゴ博士。

ある患者はハマートンコートで状態が良くなり退院し、ケアホームに移った。昼間アクティビティーを行い、夕食を取って、寝る時間となり、エレベーターで2階の寝室に移動させようとすると、急に落ち着かなくなり、暴れるようになった。「ケアホームとしては、安定剤もしくは睡眠薬などの薬を処方したいが、どうしたらいいか」とハマートンコートに相談してきたという。

ヒューゴ博士は、まず投薬には待ったをかけた。「我々が最初に行ったのはご家族に話を聞くことでした。娘さんに事情を説明し、思い当たることがないか聞きました。最初は何も思い当たらないということでしたが、しばらくして、『そういえば、母は子供の頃、いたずらをして親から押入れに閉じ込められた体験が非常に怖かったと、認知症になる前に話してくれた』と教えてくれたのです。彼女はエレベーターの狭い空間を見て押入れに入れられた感情がよみがえり、おびえたのかもしれない。そこで、ケアホームにそのことを話して、彼女の寝室を1階に移してもらい、エレベーターを使わない生活にしてもらったところ、症状が治まったのです。まさに彼女の過去を知り、理解したことで改善できた事例です」とヒューゴ博士は話す。

このように、パーソン・センタード・ケアを行うためにはその人の過去、感情、人格を理解することがとても重要となる。これらの症例はパーソン・センタード・ケアの一部でしかないが、こうしたアプローチは自宅で認知症ケアをする家族のヒントにもなるのではないか。むしろ患者さんをよく知る家族の得意分野ともいえるのではないだろうか。

対応のヒントは個々の患者の人格や経歴にあり

実際、自宅で認知症の母親のケアをしている関口祐加監督の映画『毎日がアルツハイマー』シリーズを見たヒューゴ博士は、「本人をよく知っている人が、愛情を持ってその人の意思を尊重した対応をすることは、薬を処方し、活動範囲を拘束するような昔ながらの病院が行う認知症ケアに比べ、はるかに優れていることが分かります」と話す。

「認知症と診断されても、誰もが同じような症状や問題を抱えるわけではなく、どのような問題が生じ、それにいつどのように対応すべきかはそれぞれ異なります。対応方法のヒントの多くは個々の患者さんの人格や経歴などにあります。認知症の患者さんをケアすることは大変な仕事ではありますが、その人に対する正しい理解があれば、介護者は自分たちが思っている以上に良いケアをすることができるでしょう」(ヒューゴ博士)

(文 伊藤左知子)

ヒューゴ・デ・ウァール博士
 英国国立認知症ケア・アカデミー「ハマートンコート」施設長。1989年、オランダFree University医学部卒業後、英国で精神医学を学び続ける。98年ノーフォーク州で老年精神医学のコンサルタント、2013年南ロンドン認知症ヘルス・ネットワークの臨床ディレクターに就任。17年英国全国の認知症分野を対象にした生涯功労賞のファイナリストにノミネート。英国ロイヤル・カレッジ精神科医、高等教育アカデミーフェロー、世界精神科協会教育部門メンバー。

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_