坂本龍一 役作り曲作り、『ラストエンペラー』の狂騒編集委員 小林明

アカデミー賞のオスカー像はニューヨークの個人スタジオの書棚に置いている

「受賞した翌日から驚いたのは、僕が泊まっていたロサンゼルスのホテルの部屋に映画監督デヴィッド・リンチら有名人が次々と祝福に来たこと。『やあ、おめでとう。一緒に仕事がしたいね』などとあいさつされて戸惑いました。ジャズ・ピアニストのハービー・ハンコックからは花が届くし、俳優のマーロン・ブランドからは脚本が送られてくる……。すごい騒ぎでした」

――まさにオスカー効果ですね。

「一度認識されると、仲間として迎えてもらえるみたいなところがあるのでしょうね。だから、もしそのままロスに移り住んでいでいたら、その後の僕の人生もかなり違っていた気がします。ハリウッドの映画関係者も『いつ引っ越してくるんだい』なんて必ず聞いてくる。でも、僕はハリウッド村の住人になる気はなかったので、『ロスに越してくるつもりはない』と答えていたら、やがて何も言われないようになりました」

元気なアジア映画、すでに邦画を抜き去る?

――最近は中国をはじめ、香港や台湾、韓国などアジア映画の勢いがすごいですね。

「アジア映画は元気で熱いですよ。タイやベトナム、インドネシアなども含めてグングン伸びている。経済発展に伴い、文化水準も向上し、日本に学ぼうというハングリーさが強い。吸収するペースも速い。日本映画はウカウカしていられません。日本をとっくに抜き去ってしまっているかもしれない。高度経済成長期だった日本もこんな感じだったんでしょうね」

――昨年、日本以外のアジアで初となる韓国映画『天命の城』(2017年公開)の音楽も手がけました。

韓国映画『天命の城』の音楽のレコーディング風景(ソウルで、左端が坂本さん)

「最近は寝る前に韓国映画を見ることが多い。なかなか面白いですよ。核戦争の恐怖や北朝鮮でのクーデターを扱うなど脚本がリアルで引き込まれる。役者の演技もいいし、編集もうまい。アクションや恋愛もあり、娯楽性もある。韓国から映画音楽のオファーが来たときは『よし、来た来た』と喜んで引き受けました」

――韓国では反日感情はなかったですか。

「特に感じなかったですね。20年くらい前ならば日本文化に席巻されるという警戒感が強かったんでしょうが、今は自信があるのでしょう。むしろ日本人の僕に映画音楽を任せていることをプロモーションにしていたくらいでした」

――アジアのメディアからの取材も殺到しているようですね。

「すごい勢いです。スポンサーにはお金があるし、読者のニーズも多いので中国、香港、韓国などの雑誌や新聞、テレビ、ネットメディアが次々に取材を申し込んでくる。高名な写真家に撮影を依頼し、多額の取材費をかけている。でも、日本の雑誌もかつてはそれ以上に勢いがあったんですよ。よく仕事をさせてもらったのは角川書店にいた見城徹さん、マガジンハウスにいた小黒一三さん、小学館にいた島本脩二さんの3人。日本出版界の黄金期をけん引したカリスマ編集者で、それぞれ思い出が深いですね」

見城、小黒、島本…、3人のカリスマ編集者との思い出

――見城さん、小黒さん、島本さんとはどんな思い出がありますか。

アカデミー賞受賞式の夜、ロサンゼルスのホテルの坂本さんの部屋で開いた2人だけの祝賀会(右が見城さん、写真は見城さん提供)

「見城さんとは神宮前にあるバーで会ったのが最初。女優の関根恵子さんとお酒を飲んでいたのが見城さんで、僕がポロライドカメラで2人の写真を撮り、手渡したのがきっかけです。同世代なので幼なじみのように仲良くなり、一時期はほぼ毎晩のように一緒に飲み歩いていました。彼が編集長だった『月刊カドカワ』に5年にわたって連載を書きました。『ラストエンペラー』でオスカーをとった時は、ロスのホテルの僕の部屋で一緒に祝杯を挙げた。彼は角川を辞めてから幻冬舎を設立。今でも仲良くしています。困っている時に助けてくれるのが友人だとすれば、彼は間違いなく数少ない友人の一人です」

「小黒さんは84年に雑誌『ブルータス』でアマゾンに一緒に行ったのが忘れられない思い出。南米通信という特集でしたが、ピラニアが泳ぐ川で大蛇とともに写真撮影をしたり、ブラジル一といわれた超美形ニューハーフモデルらと派手に酒盛りをしたり。すごい経費を使ったんじゃないですか。アフリカ取材なども積極的に行っていて、社内でも伝説になっていたようです。その後、木楽舎を設立し、月刊誌『ソトコト』を創刊します。島本さんは『GORO』『写楽』を担当し、ベストセラー『日本国憲法』も手がけたヒットメーカー。『YMO写真集OMIYAGE』を出版してくれました。3人とも人間的な魅力にあふれたエネルギッシュな編集者。自分たちが一番面白がって仕事をしていましたね」

(インタビューの最終回を10月12日に掲載します)

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