2018/10/8

知能だけではない。タコを研究することで、腕の再生やカムフラージュなど、タコがもつ驚異的な生態のメカニズムについても解明できるだろうとドーレン氏は言う。こうした研究から、ロボット工学や組織工学で新たな成果が生まれそうだ。

タコの能力で興味深い点はまだまだある。自閉症につながる遺伝子を持つタコは、自閉症の人間ができないタスクをこなせるのだ。さらに、1度生殖すると死んでしまうタコがいる一方で、何度も生殖できるタコもおり、ここから、加齢に関する知見が得られるかもしれない。

実験に使われたカリフォルニア・ツースポットタコ(写真の個体は実験と無関係)は、エクスタシーを使った人間に近い反応を見せた(PHOTOGRAPH BY DAVID LIITTSCHWAGER, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)

タコに悪影響はないのか?

話を今回の発表に戻そう。そもそもタコに合成麻薬を与えることは、研究とはいえ倫理的に許されるのかと思う人もいるだろう。ナショナル ジオグラフィックが生命倫理学者数人に取材したところ、対象の動物が人道的に扱われている限りは問題ないだろうとする学者が多かった。タコにストレスがないか監視し、兆候があればすぐに実験から外す、依存症になるほどの頻度で薬物を与えない、などだ。

「倫理上の大きな要請は、タコを痛みや苦悩の体験から守ることです」と話すのは、米ベイラー医科大学の医療倫理学者ジェニファー・ブルーメントール=バービー氏だ。

米デポール大学の生命倫理学者、クレイグ・クルーグマン氏は、目的が重要だと考えている。「おそらく一番大事なことは、研究の目的、つまり目標です。医学や獣医学に役立てようとしているかということです」

ドーレン氏によると、米国では、タコを使った実験には昆虫やミミズの場合と同じルールが適用されるという。一方、ヨーロッパの当局は12年前、頭足類を無脊椎動物の中では唯一、脊椎動物と同等に扱うべきものと定めた。

ドーレン氏のラボでは今回、マウスの場合と同じガイドラインに従ってタコの実験を行ったという。氏は倫理上の問題が見られなかった主な根拠として、実験後に米マサチューセッツ州にあるウッズホール海洋研究所の水槽に戻されたタコが生殖を始めたことを挙げた。また、タコが墨を吐くのはストレスのサインだが、これも実験では一切見られなかったとドーレン氏は話した。

「タコは広く食用にされていることも忘れてはいけません」とドーレン氏は言う。「研究のために、タコに負担をかけることは確かにあると思います。でも、実験では、食べられるときよりは丁寧に扱われています」

(文 Lori Cuthbert、訳 高野夏美、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年9月25日付]

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