地球最古級 謎の古代生物の正体は「動物」と判明

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/10/6
ナショナルジオグラフィック日本版

謎の印象化石を残したこの生物は、動物だったのか、原生生物だったのか、それとも菌類だったのか?化学が新たな手がかりをもたらした(PHOTOGRAPHY BY O. LOUIS MAZZATENTA)

今から5億7000万年ほど前の浅い海に生息していた奇妙な生物たちがいる。これらは、エディアカラ生物群と呼ばれ、グニャグニャした生物と考えられている。エディアカラ生物群は複雑な生命体としては、地球最古級である。ただエディアカラ生物群に関しては謎が多く、生物のグループである「界」のいずれに分類されるかで、議論が絶えなかった。2018年9月21日付け学術誌『サイエンス』に発表された研究で、エディアカラ生物群の1種であるディッキンソニア(Dickinsonia)が動物であることが明らかになった。

ディッキンソニアは、平べったい楕円形をした生物で、長いところで120センチ以上もあった。体の全体に細かい溝があり、真ん中に1本の隆起があることが化石から分かっている。この数十年間は、菌類、原生生物、動物のいずれかに分類されていた。5億7000万年前の動物となると、5億4100万年前に生物の種類が爆発的に増加した「カンブリア爆発」よりも前の話であり、地球最古級の動物にあたる。

論文著者であるオーストラリア国立大学の古生物地球化学者ヨッヘン・ブロックス氏は、「ディッキンソニアは私たちの仲間、動物だったのです」と語る。ディッキンソニアはその後絶滅してしまった。しかし、当時の多細胞生物が進化して、現在の多様な動物が登場した。

「ディッキンソニアの謎については、これで決着したと思います」と、米カリフォルニア大学リバーサイド校の古生物学者メアリー・ドローザー氏は言う。同氏は今回の研究には関与していない。

エディアカラ生物群とはなにか?

ディッキンソニアをはじめとするエディアカラ生物群は、1946年にオーストラリアの南オーストラリア州フリンダーズ山脈のエディアカラ丘陵で最初に発見された。現在の生物とはあまり似ていない。古生物学者のアドルフ・ザイラッハー氏は、2007年のロンドン地質学会誌で「別の惑星の生命体のように奇妙だが、手が届く場所にある」と表現している。

彼らの出現は、小さかった生物が大型化する移行期にあたる。エディアカラ生物群は現時点で50種類が知られており、南極大陸を除くすべての大陸で発見されている。

シンプルな方法で存在しないものを調べる

エディアカラ生物群の研究を難しくしているのは保存の問題だ。体は腐ってなくなっている。化石に残りやすい骨や殻などは持っていないため、エディアカラ生物群の実体は失われ、痕跡だけが残っている。また、これらの生物は進化のごく初期のメンバーで、現代の生物とは違うため、進化の系統樹のどこに位置するかを探るのも難しい。1980年代には、エディアカラ生物群には、独自の絶滅した「界」を与えるべきだと提案する研究者さえいた。

過去の研究は、ディッキンソニアの痕跡の物理的な分析を中心に行われ、その成長と発達、動き回っていたことの証拠、サイズ、複雑さが調べられてきた。今回の研究では、科学者たちは新たな手がかりとして、ステロールというバイオマーカー分子に目をつけた。多くの生物が体内でステロールを作る。ステロールは生物によって、少しずつ違うのだ。

動物が作るステロールがコレステロールだ。「チキンナゲットに含まれている、あれです」とブロックス氏は冗談めかして言う。ステロールはほとんどの動物の細胞膜で重要な役割を果たしていて、細胞への物質の出入りの調節を手伝う。

研究チームはこれまでもバイオマーカー分析を用いて、堆積物中の藻類を探し出してきた。「分析により、その場所の生態系の平均組成が得られます」と、今回の論文の筆頭著者であるオーストラリア国立大学の博士課程学生イリヤ・ボブロフスキー氏は説明する。

エディアカラ生物群の化石の大半が印象化石であるため、バイオマーカーを検証しようとする研究者はこれまでいなかった。しかし、ディッキンソニアのような印象化石(痕跡だけが残っている化石)の中には、有機物の薄い層が残っているものがある。ボブロフスキー氏は、この有機物層の中の炭素を含む物質が、奇怪な生物の秘密を隠し持っているかもしれないと考えたのだ。

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