相次ぐパワハラ、日本の「家族主義」の弊害
ダイバーシティ進化論(水無田気流)
不正融資問題から明らかになったスルガ銀行のパワハラ横行の実態――。筆者は山崎豊子の組織小説の劣化版を読む思いがした。
いや、少し前から連続ドラマシリーズのように、組織的な偽装やパワハラ問題は、メディアを席巻している。3月は日本レスリング協会のパワハラ問題、5月は日大アメフト部悪質タックル事件、夏以降は東京医科大の女子受験生の得点操作による合格者抑制事件と日本ボクシング連盟前会長の権力乱用事件、そして体操女子のパワハラ告発をめぐる騒動と、毎月のように話題の種は尽きない……。
一連の組織腐敗事件の背景にあるのは、コンプライアンス(法令順守)の欠落、悪しき現場主義、それらを生む土壌ともなる「家族主義」的な日本社会の負の側面である。「家族主義」的な社会とは、家族的価値や規範が家族の外部にも適応されやすい社会を意味し、公的な組織の秩序もまた、「家族」的であることがよしとされる特性をもつ。
こうした組織の問題は、しばしば上下関係や師弟関係が「家族」や「親子」関係を暗喩とした「無条件的な服従」を前提とするため、客観的な批判や問題解決などの自浄作用が機能しにくい点と指摘される。権威も属人的となり、人情的情緒的に表現される傾向があるため、パワハラもパワハラとは認識されずに、「愛の鞭(むち)」や「必要悪」などとみなす「現場の空気」が支配的となる。
現在産業界で求められている「ダイバーシティ(多様性)」推進にも、このような特性は障壁となっている。組織内での権威への無批判な同調や、既存の慣行を保持するため合理的な批判を許さない職場風土は、異質な成員を許容し得ないからだ。性別、年齢、国籍を問わず、誰もが公正に評価され、能力を発揮し、かつハラスメントの横行を防ぐためにも、この社会の負の側面とは決別すべきだ。
まさにこれらの解決策が、コンプライアンスといえる。惜しむべきは、この単語を「法令順守」と訳した瞬間、必要以上に堅苦しく権威的に響くなど、適切な訳語に恵まれない点だ。組織の公正な評価体系や意思決定過程を守り、腐敗を予防し、問題の自浄作用をうながすためにも、「日本の組織にはなじまない」「画に描いた餅」などと一蹴せず、普及に努めたい。コンプライアンスの欠落した組織の末路は、もう十分に見過ぎたではないか。
1970年生まれ。詩人。中原中也賞を受賞。「『居場所』のない男、『時間』がない女」(日本経済新聞出版社)を執筆し社会学者としても活躍。1児の母。
[日本経済新聞朝刊2018年8月6日付]
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