自治体のホームページに「寡婦控除のみなし適用」が始まったと載っていました。どんな制度ですか。また寡婦控除自体に変更はあるのでしょうか。
寡婦控除は所得控除のひとつ。戦争で夫を亡くした妻を支援する目的で1951年に創設された。
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現在は夫と死別や離婚をし、その後結婚していない女性が対象だ。税理士の福田浩彦氏は「夫を亡くした高齢女性の利用も多い」と話す。控除額は所得38万円以下の子や扶養親族がいる人、扶養親族がいなくても死別で合計所得が500万円以下なら27万円。さらに一定の条件を満たすと「特別の寡婦」となり控除額が35万円に増える。81年には男性向けの「寡夫控除」もできた。
「みなし適用」とは、税制上の寡婦控除の対象外である未婚のひとり親家庭にも同控除を適用したとみなして、保育料の軽減や職業訓練給付金の増額などにつなげる仕組み。国が子育てや健康関係などの分野の20以上の事業で政令などを改正した。実施主体の自治体では9月から始めたところも多い。
該当者の申請に基づき、同控除があるものとして所得を計算する。所得が減れば給付金などの算定区分が変わる可能性があり、自己負担が減ったり、受け取る金額が増えたりする。
みなし適用という複雑な方法をとる理由は、寡婦控除が婚姻(法律婚)を経ることを条件にしているからだ。ひとり親でも未婚の人は適用が受けられず不利益を被ると議論になった。
厚生労働省の調査によると、母子世帯になった理由について、2011年に「未婚の母」(7.8%)が「死別」(7.5%)を初めて上回った。直近の16年分では8.7%、8%と差が広がっている。「就労収入をみても未婚は死別や離婚を下回り、生活の厳しさがうかがえる」とファイナンシャルプランナーの新美昌也氏は話す。
自治体の中には一部の事業について、未婚のひとり親に独自に寡婦控除をみなし適用するところもあった。川崎市や横浜市などは数年前から実施している。
後を追う形で国は18年度から、子が通う保育所や幼稚園の費用、親が看護師資格などを取得する際の給付金、児童扶養手当の算出などでみなし適用を採用した。対象事業に関しては自治体の足並みがそろう。
一方で寡婦(寡夫)控除に未婚のひとり親(子がいる婚姻届を出していない者)を加える税制本体の見直しは遅れている。18年度は見送られ、「19年度税制改正で検討し、結論を得る」とされた。先日出そろった19年度の税制改正要望には厚労省のこの見直し案が盛り込まれており、今後議論される見通しだ。
[日本経済新聞朝刊2018年9月29日付]