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金足農の準優勝は美談ではない 選手守れぬ残酷な戦い ドーム社長・安田秀一 日本版NCAAについて(下)

2018/10/5

僕には甲子園球場が、残酷な戦いを人々が楽しむ、ローマ時代のコロッセオのように感じられました。とても先進国の健全なスポーツには思えません。高校野球のフォーマットを規定している日本高等学校野球連盟(高野連)が、選手に何かあったときに責任を取れるとも思えません。学校の校長先生や監督ばかりが責任を追及され、何より大事な学生の安全という根本問題の解決には至らないことは容易に想像できます。

そもそも、野球に限らず、人口56万人の鳥取県と、1384万人の東京の代表同士が競い合う「全国大会」というフォーマットがあまりにもいびつで強引で、教育を掲げるには不誠実過ぎると思います。選挙の1票の格差を放置している我が国のゆがんだ民主主義の表れだとも思っています。

■「フェア」の考え方、日米で異なる

欧米のスポーツ先進国では、条件を同じにして戦うことがフェアと考えます。ところが、日本では与えられた条件が違っていても、平等に参加できることがフェアだと考えがちです。結果、「誰もが日本一を目指す」という仕組みでの活動を強いられます。中央集権の国らしく、選択肢がないのです。

米国では競争の条件をそろえるため大学を3つに分類している(写真はNCAAカレッジフットボール、9月29日)=USA TODAY

そもそも学生スポーツは教育であり、人格形成の重要な役割を担います。人格形成の過程にはいろいろな方向性があるべきです。フェアな戦いとは何か。スポーツ推薦がある学校での日本一、ない学校での日本一、受験を優先する学校同士が週3日の練習で地域での優勝を競う、などその気にさえなれば条件をそろえることはさほど難しいとは思えません。

米国のNCAAでは競技の条件を同じにすることが基本理念の一つです。それぞれの大学はスポーツにかける予算の大小に応じて、自ら所属するディビジョンを1~3の中から選びます。

学業でも優秀なことで有名なハーバード大やスタンフォード大はスポーツにも力を入れており、ディビジョン1に所属しています。しかし、同様に大規模な名門校であるシカゴ大学はスポーツに力を入れる意志はあまりなく、ディビジョン3に所属しています。選手の登録人数はもちろん、スポーツ推薦の数、練習時間、練習に参加できる学業成績ですら、学校間で同じにする規制があります。

したがって、150人対12人といった試合などありえません。安全対策は大前提として、人格形成の過程において「何がフェアなのか?」ということを正しく学ぶことは民主国家において、大変重要なポイントだと思います。ましてや、環境が不利な学生を判官びいきの世論によって、さらに危険な状態に追い込むことなど絶対にあってはならないでしょう。

■日本のスポーツ界にもっと議論を

2年後の五輪・パラリンピックを控えて、日本のスポーツ界では今、さまざまな問題が吹き出しています。学生スポーツの改革だけが必要なことではありません。暴力指導やパワハラ体質、競技団体のコンプライアンスの問題。日本でも「#MeToo」運動の胎動を感じることができます。

戦後70年を過ぎ、地球規模で生活環境は大きく変わっています。当時つくった仕組みが、現代社会とマッチしていることの方が珍しいと考えるべきでしょう。これからも、勇気を持った発言や行動が少しずつ増えていく、発想や仕組みをより現代的に、民主的な環境に変えていこうとするエネルギーがふつふつと湧き上がってくるでしょう。

何より大切なもの、それは正しい知識と情報、学ぼうとする姿勢です。自分の知識経験を振りかざす旧世代に対して、今の若者たちはすぐに検索して正しい情報を集めることができます。このコラムも、そんな検索の受け皿となり、考える材料の一助になればうれしく思います。知の融合が進み、よりよい仕組み、合理的で民主的な仕組みが生み出されていく。そんな「SPORTSデモクラシー」が進むことを願っています。

安田秀一
1969年東京都生まれ。92年法政大文学部卒、三菱商事に入社。96年同社を退社し、ドーム創業。98年に米アンダーアーマーと日本の総代理店契約を結んだ。現在は同社代表取締役。アメリカンフットボールは法政二高時代から始め、キャプテンとして同校を全国ベスト8に導く。大学ではアメフト部主将として常勝の日大に勝利し、大学全日本選抜チームの主将に就く。2016年から18年春まで法政大アメフト部の監督(後に総監督)として同部の改革を指揮した。18年春までスポーツ庁の「日本版NCAA創設に向けた学産官連携協議会」の委員を務めたほか、筑波大の客員教授として同大の運動部改革にも携わっている。

(「SPORTSデモクラシー」は毎月掲載します)

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