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箸は2膳、わんは湯ですすぐ 香港飲茶の不思議な作法

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NIKKEI STYLE

飲茶にはファンにはおなじみのちょっと変わった作法がいくつかある。食前に白湯で器をすすぐこと、平皿は食べるためには使わないこと、そして銘々に箸が2膳セットされることなど。8月に香港に出張し、現地の方と飲茶に行ったときに改めてそれをコーチされ、同時に教わったそれらのいわれが面白かったのでお伝えしたい。

香港では朝昼晩とも外食中心の食生活が当たり前でもあり、ランチタイムに選べる店には事欠かない。しかも、香港は現地の料理以外に、日本はじめ世界の味覚がそろう街でもある。きょうび香港に来ていまさら飲茶でもなかろうという心もあったのだが、通訳についてくれたJさんは飲茶にしようと薦めてくれた。それにはわけがある。

以前、私が初めて香港を訪れた最初の晩、ホテルから出て市場の通りをうろついていたところ、扉と窓を開け放したフロアに長テーブルとベンチを並べた半分露店のような飲茶の店があった。香港映画に出てきそうな風情にも引かれて、そこへ入って行って一人で食べて来たという話をしてから、Jさんはそれは飲茶の本来の楽しみ方ではないと気にしてくれていたのだ。

いわく、まず夕食にというのが飲茶らしくない(一応、そのとき周りには現地の家族連れなどの客もいたのだが)。何より、「一人で」というのが飲茶らしくない(数品取ってシェアすることでいろいろなものを楽しむということが一人ではできない)。そんな食べ方で、香港で飲茶をしたと思ってほしくないと、そういう気持ちだったようだ。だから、この日のランチは、Jさんによる飲茶講習会でもあったのだ。

さて、席についてJさんが最初にしたことは、わんと湯飲みとレンゲに湯をかけることだった。日本でも飲茶専門店などで見かける作法ではあるが、現地でも本当にそうするんだとわかって感心して眺めていると、私にもそうするように説明してくれた。

まず、手元に置かれたわんの中に湯飲みを寝かせるように入れる。そこへレンゲも収める。そして、陶器でサーブされた湯をそれら全体に注ぎ、湯飲みの中をレンゲで軽くかき混ぜる。そして、空のボウルに湯を空けてしまう。そこまでの仕事が終わると、食べる用意ができたということになる。

中国茶をいれるティーセレモニーのデモンストレーションで、茶器と杯に湯を注ぎ、茶葉に注いだ1杯目の湯は杯に注いで捨ててしまうというのはよく見かける。それは茶葉表面のほこりを落とし、同時に茶器を十分温めるためだと説明されることが多い。飲茶のこの作法もあれと同じ話かと思っていた。実際、日本では飲茶の食器を白湯ではなく茶ですすいでいる人も見かける。

だが、Jさんは茶ではなく白湯ですすいでいる。そしてその説明は意外なものだった。

「昔、飲茶の店の器は汚かったですね。だから、こうやってすすいでから使ったんです」

そう言われて、以前一人で行ったあの露店のような店を思い出し、なるほどと思った(あの店はちょっと清潔さに欠けていた)。また、これは後日の話だが、やはり香港に仕事でよく行っていた経験がある人にこの話をしたところ、その人も、現地の人から「箸は汚いから拭いてください」と言われたことがあったという。落語の「時そば」の、箸が割り箸でないので袖で拭って使うといったくだりを思い出すが、香港も屋台が多かった歴史があるから、洗い物を十分処理できない時代にできたしぐさが、今日まで残っているということがあるのだろう。

ただし、今訪ねているその店は清潔で、器もぴかぴかだ。器の汚れを気にしてそのようなことをする必要はない。

それでも、客の誰もがそうしている。周りを見回すと、ほかのテーブルでも、着席したばかりの客は確かに皆同様のことをしている。どうもこれは香港人にとってはやらずにはいられないことのようだ。由来とは別に、作法だけが残ったということらしい。

いや、印象としては作法というよりも、これをすること自体が一つの楽しみになっているようだ。そう感じたのは、隣の席についた夫婦の様子からだった。彼らのすすぎ方はもっと徹底的で、わんと湯飲みとレンゲの一切をボウルに収めてしまい、その全体に湯をかけて沈めている。そして、その一連の動作を、2人でおしゃべりしながらゆっくり進めているのだ。それは、これからおいしいものを食べるという気持ちを盛り上げる小さな儀式のようだった。

しかし、もう1つ疑問は残った。テーブルにはわんのほかに取り皿も置かれていたのだが、これを洗うことはしない。それはテーブルの上で洗うことが無理だからでもあるが、衛生を考えるなら何らかの方法で洗うことは考えたはずだ。

この疑問はすぐに晴れた。Jさんを見ていると、料理を取り皿に取るということをしない。おや、と思い、スマホを取り出して以前別の香港人と食事をしたときの写真を見てみると、その香港人も取り皿に料理を取ることはせず、わんか小皿に取っていた。

香港の食事でテーブルに置かれる取り皿は、皮だとか骨だとかの食べられない部分や手を拭いた紙ナプキンなどを捨てるために置かれるもので、通常はこれに何かを盛り付けるようには使わないということだった。ならば白湯ですすぐ必要もないわけだ。

さて、この日注文したののは、エビギョーザ、小籠包、粉腸という定番。昨今の日本の中高年男性のたしなみとして糖質制限中の私だが、香港に来てこれらは外せない。

特に、この粉腸というものは、一度食べてからやみつきだ。日本の飲茶の店であまり見かけない。日本の飲茶通がこんなことを教えてくれた。最近、飲茶の人気店が日本に進出して、最初はお薦めメニューとして粉腸をピーアールしたところ、注文が多すぎて提供が間に合わなくなってしまい、仕方なくお薦めメニューから外したのだとか。日本人にはなじみがなかったというだけで、食べればそのおいしさのとりこになるということだろう。ならばなおのこと、香港に来たらこれを食べずに帰る手はない。

別な香港人が教えてくれたところでは、店の看板やメニューで「粉」という字があれば、それはだいたいはコメの粉を使った食材・料理を指すという。だから、「粉腸」というのはコメの粉で作ったチューブ状の食べ物ということだ。平らなビーフンのようでもあり、コメの粉で作ったワンタンのようでもあり、つるつるぷるぷるという食感がよい。

今回は食べなかったが、以前注文したものは、粉腸で油条(細長い揚げパン)を包んだもので、どうやって作ったのだろうと感心した。それは表面がつるり、かぶりつくとざくっと二段構えの食感で、また実にうまいものだった。

ほかに、香港のチャーシューも食べるでしょうということで、「本当はこれは飲茶で食べるものではないけれど」という注釈付きで、2種類を注文してくれた。表面を蜜で仕上げた照り焼き状のものと、皮部分をかりかりにあぶったもののだ。

いよいよ料理がサーブされて食べましょうということになったところで、私はふと戸惑ってしまった。箸がめいめいに2膳ずつセットされているのである。これはなぜでしょうとJさんに尋ねてみると、これまた衛生がらみでの意外な説明だった。

「香港ではもともとは直箸が当たり前です。でも、SARS(重症急性呼吸器症候群)がはやった頃から、取り箸を使うようになりました」

中国大陸南部を中心にSARSの感染アウトブレイクがあったのは2002年冬頃から2003年夏頃にかけてだった。日本の国立感染症研究所のウェブサイトで改めて調べてみると、当時報告症例数は、8000人を超え、そのうち800人近くが死亡している。

言われてみれば、あの頃SARSを巡っての混乱や、空港での検疫などさまざまなニュースが伝えられていたことを思い出す。公衆衛生の取り組みも変わり、たとえば香港の空港のトイレがきれいで使いやすくなったのはSARS以来だという話を聞いたことがあった。

当時、感染の予防にさまざまな対策が取られるなか、飛沫や直接・間接の接触を避けることも推奨されたことから、レストランで取り箸が採用されることとなったようだ。日本で取り箸を使うとすれば、1つの料理に1膳というのが一般的だが、香港で銘々に1膳ずつの取り箸というのは、共通の箸を介して手から手へ感染することも抑えようとする差し迫った狙いがあったことを感じさせる。

SARSは2003年7月に終息宣言が出て、その後大規模な拡大はない。その意味では、もう取り箸にこだわる必要はないのかもしれない。けれども、SARS禍からすでに15年たった今も取り箸があるのは、未知の次なる感染症対策というあるだろうが、器を湯で注ぐのと同様に、これは香港の新しい作法として定着したのに違いない。食を巡る民俗の変化の現場に居合わせているようで、得も言われぬ感慨があった。

(香雪社 齋藤訓之)

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