子育てしそびれ、切なさが消えません
著述家、湯山玲子さん
50代の会社役員。既婚ですが子供はいません。若い頃は仕事も忙しく充実していましたが、振り返ると「子育て」をやり残したように思えます。後継を残したい気持ちや老後について考えるようになり、このままで良いのかという思いが日々頭をよぎります。妻も同世代。熟年離婚も選択肢ですが、再婚しても思い描いた通りになるとは限らず、仲が悪いわけでもありません。子育てしたいという願望が頭から離れず、切ないです。(東京都・男性・50代)
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この悩みに対しては、「やるのか、それとも諦めるのか」という2つの選択があります。まずは前者ならば、妊娠適齢期の若い女性とネンゴロになり、なおかつ、相談者氏の子供を作りたいと思わせるまでの深い関係まで持っていければいい。加えて、愛人との子育て生活を見守りつつ、離婚をせず今のままの良好な夫婦関係を続けようという超都合のいい妻がいたら、もう御の字ですね。
とまあ、これは、将来の夢を尋ねられて「長嶋茂雄のような野球選手」と答えた何万人の小学生と同等の実現不可能な夢でしょう。
とすれば、後者の「諦める」という結論が現実的ですが、まずは動機である「後継を残したい」を「血縁」から「生き方やセンス、知見などを受け継いでくれる文化的な継承」に変えてみる、というのはいかがでしょう。2世タレントの残念な事件が取りざたされますが、血縁は残念ながら「親自体に備わった文化」を継承できない。代わりに、「文化的遺伝子継承者」を育てるという方向です。
私には今の自分を作り上げることに非常に貢献してくれた何人かのオトナがいます。小学生の私にサンローランの香水の小瓶をくれて、パリの思い出話をしてくれたZ君のママ、白土三平の劇画『カムイ外伝』全巻を教室に持ち込んでガイダンスをしてくれたK先生、などなど。
相談者氏の周りには「何だか、オレと趣味が合う」と思う親戚や友人の子供はいませんか? そういう子に、特別なおじさん、として、どんどん漫画やCDを貸し出し、ライブ、小旅行や美食レストランに連れて行くわけです。学校と家庭にしか人間関係をつくれず、他者ときちんとコミュニケーションする、ということが不得手のまま成人してしまう子供たちにとっても、こうした大人との触れ合いは非常にメリットがあるのです。
子育て欲を社会貢献にまで昇華する、という目論見(もくろみ)。仕事とはまた違った苦労や発見が、第二の人生のエンジンになる可能性は大いにあると思いますよ。
[NIKKEIプラス1 2018年9月29日付]
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