ハンモックでどこでも極楽 カフェや自宅利用広がる
名前は知っているが、実際にはあまりなじみがない――。そんな存在だったハンモックが最近、生活に浸透し始めた。アウトドアで使うだけでなく、インドアにハンモックを常設するカフェや、自宅新築に合わせ最初から設置する人が出ている。この秋、極上の開放感を低価格で実現できるハンモックを試すのはいかがだろう。
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JR御徒町駅(東京・台東)から歩いて5分、山手線の高架下にある「カフェ アサン」には6つのハンモック席がある。天井近くの梁(はり)から伸びるロープに布製のハンモックがぶら下がる。
ハンモック上でスマートフォン(スマホ)を眺めていた会社員の女性(23)は「揺られながらデザートを待つのがたまらない」と笑顔を見せる。焼き上がるのに20分以上かかる特製スフレホットケーキを、寝ながら待っている人も多いという。
テーブル席も30ほどあるが、ハンモックは人気で90分の利用制限がある。店長の相馬元気さん(33)は、「寝てしまう人もいるので、申し訳ないが時間制限を設けた」と話す。壁掛けテレビや観葉植物を配置した雰囲気のある空間で、8割は女性客だという。店のオープンは2010年だが、東京都内に10店以上あるとみられる「ハンモックカフェ」の中では早い部類だ。
10年で販売数5~6倍に
カフェ アサンがハンモックを仕入れているのは01年から通販サイトを運営するハンモックライフ(東京都三鷹市)だ。同社の梶原美紀社長は「この10年で販売数は5~6倍に増えた」という。
同社はハンモック発祥の地とされる中南米からハンモックを輸入している。同地を旅行した梶原社長の夫が土産として買ってきたが、知人から「売ってもらいたい」との声が寄せられ、創業に結びついた。新規客を中心に、販売数量は拡大し続けている。
日本ではハンモックは、アウトドア用品とのイメージが強かったが、自宅利用も出始めている。積水ハウスの広報担当者は「ハンモックを設置したいと要望する客が増えている」と話す。昨年、実際にそんな家を建てた千葉県流山市の会社員男性(39)を訪ねてみた。
家具と比べて価格手ごろ
「沖縄で泊まったリゾートホテルにハンモックがあり開放感にはまった。家を建てる段になってそれを思い出し、室内に設けようと考えた」と男性。見学した積水ハウスの住宅展示場で、吹き抜け式の天井と鉄骨の梁に気付き、「この梁を使えばハンモックがはれる」と考えた。
ロープとカラビナで固定するハンモックはもっぱら7歳と10歳の娘たちがブランコのように揺らして使う遊び場になっている。ソファなどのインテリアにもこだわりがあるが、そうした家具と比べ値段が安いのも気に入っている点だ。通販サイトで約1万円で購入した。
3階のベランダには金属フレームを使って設置する2つ目のハンモックもある。男性は「ようやく涼しくなり、ベランダでゆっくりできるようになった」と話す。憩いの場を室内に設けたことで、マンションに住んでいたころと比べ、自宅で過ごす時間が増えた。
野外活動向けのハンモックも進化を続けている。生活雑貨販売のパール金属(新潟県三条市)は、「キャプテンスタッグ」のブランド名でハンモックの国内販売を30年以上続けて来た。
もともとネット状のメッシュハンモックを販売していたが、アウトドアブームを背景に5年ほど前から徐々に商品展開を拡充。現在はナイロン製や帆布素材製など6種類を扱う。写真共有サイト「インスタグラム」での展開も意識し、様々なカラーを用意した。
中でも特徴的なのは、17年発売の「モスキートハンモック」である。ハンモック上部が蚊帳に覆われたモデルで、蚊帳の上部にはジッパーが付いていて開閉できる。野外でハンモックに寝ていても、蚊に刺されてはたまらないという現実的な声に応えた。「かゆいところに手が届く製品作りが弊社のモットー」と営業担当の若槻太郎氏は話す。定価は7000円で、発売から約5000個売れている。
体を空中に預けてしまう心地よさと開放感。そんな寝心地や座り心地を体感してしまうと、途端にやみつきになる。そのうちに一家に一つという時代が来るかもしれない。
(企業報道部 大平祐嗣)
[日本経済新聞夕刊2018年9月29日付]
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